東北住建株式会社

お知らせ

2020年2月7日 住建会新春恒例講演会のご案内

 住建会新春恒例講演会のご案内です。

 第1部は広島大学大学院工学研究科 建築学専攻建築構造力学研究室 森 拓郎先生に、深刻な温暖化で北国でも無視は出来ないシロアリの食害と建築についての講義をおこなっていただきます。本分野の第一人者のお話なのでご期待ください。

 第2部はおなじみのオプコード研究所 野辺 公一先生です。「2020年代の拠点化戦略」と題し、減少が明確な今後の住宅需要に対して、我々は何をしなければならないかなどをお話しいただきます。

 オリンピックを前に浮足立ちがちな世相の中、この後どう準備するのか講師の率直なご教示をわたしたちは深く考えていきたいと思います。ぜひご参加ください。

 

■講  師:広島大学大学院工学研究科建築学専攻 建築構造力学研究室 森 拓郎先生

■演  題:シロアリを含む木材劣化と木造住宅における影響

 

■講  師:㈱オプコード研究所 所長 野辺 公一先生

■演  題:2020年代の拠点化戦略

 

■開催日時:2020年2月7日(金)13:30~17:00

 

■講演会場:盛岡地区勤労者共同福祉センター2階会議室

      岩手県紫波郡矢巾町流通センター南1-2-7(019-638-1302)

 

■会  費:1,000円/1人(当日受付にてお支払い願います)

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2020年「年頭所感」

2020年「年頭所感」 東北住建株式会社 社長 及川秀貴

 

 2020年の年頭にあたり、謹んでご挨拶を申し上げます。皆様におかれましては、輝かしい新年を健やかにお迎えのこととお慶び申し上げます。また旧年中は皆様より格別のご支援、ご協力を賜りましたこと、深く感謝いたしますとともに心より御礼申し上げます。

 

 昨年は、政治、国際社会、スポーツ界など、喜ばしいこともそうでないことも、「平成」を総括すると共に、「令和」時代の未来を示唆するかのような出来事が起こった年だったように思います。

 また、自然が猛威を奮い、本県をはじめ日本の広い範囲に大きな被害をもたらしました。復興にはまだまだ歳月を要するものと案じています。

 

 地球温暖化に関しては、昨今急増している自然災害だけでなく、東京オリンピックの競技開催地の変更や日本近海での漁業不振など様々な分野で我々の暮らしにも影響を及ぼしてきています。

 

 企業にとって地球もステークホルダーの一員です。そのステークホルダーである地球が、大量のプラスティックごみと温暖化で悲鳴を上げています。ステークホルダーの悲鳴を無視した経営は持続可能ではありません。これからの建築では、いかに地球に負荷をかけない建物を造るかという視点がますます重要になってきます。弊社はそのために微力を尽くして参ります。

 

 人口減少と少子高齢化に伴う社会構造の変化、様々な業界再編の加速、AI、ロボティクス、キャッシュレス化など、我々を取り巻く環境は早いスピードで変化をしています。

 弊社は、変化にしっかりと対応し、必要な情報・商材を国内外問わず集め、社是の「解決提供」のもとに、皆様が抱える問題に「解決」を提供致します。

 

 結びに、皆様のご健勝とご多幸を心からご祈念申し上げ、年頭のご挨拶とさせていただきます。

「11月15日 住建会セミナー」のご案内です

 室蘭工業大学名誉教授の鎌田 紀彦先生と、MOLX もるくす建築社の佐藤 欣裕先生による新次元の高性能住宅に関する講演会を下記の通り開催します。

 これまでの省エネ論議は漸進的な省エネ強化がテーマで、本当の快適さの答えは未だ見えてきません。そこで昨年からのテーマで次世紀でも有用な住宅とはどのようなものか、温熱性能について日本での最終ゴールはどこかを、講師の率直なご教示をわたしたちと一緒に考えていきたいと思います。ぜひご参加ください。

 

■講  師:鎌田 紀彦先生 室蘭工業大学名誉教授

    演  題:最新のQ1.0住宅設計手法

 

■講  師:佐藤 欣裕先生 MOLX もるくす建築社社長

    演  題:自宅の建築から見えてきたこと

 

■開催日時:2019年11月15日(金) 13:30~16:30

 

■講演会場:盛岡地域交流センターマリオス 18階188号室

         岩手県盛岡市駅西通2-9-1(019-621-5000)

         盛岡駅隣接・徒歩1分

 

■会  費:1,000円/1人

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2019年7月19日 東京大学松村教授の出前講座

 今年も松村先生をお招きし、恒例の出前講座を開催致します。

 松村先生には「『和室』の世界遺産的価値を考える」と題しまして、ストック時代の建築学について視点を変えてお話していただきます。

 ゲスト講師は東北芸術工科大学の竹内昌義先生です。竹内先生には「これからのエネルギーまちづくり」と題しお話していただきます。「2020年の義務化」が実質的に見送られ、これから我々はどうあるべきか、先生からご指針をいただきます。

 時代の最先端におられる方々のお話です。貴重な機会なので是非ご聴講下さい。

 

■講  師:松村 秀一先生 東京大学工学部大学院教授

 演  題:『和室』の世界遺産的価値を考える

 

■講  師:竹内 昌義先生 東北芸術工科大学教授

 演  題:これからのエネルギーまちづくり

 

■開催日時:2019年7月19日(金) 13:30~17:00

 

■講演会場:岩手教育会館(ホールA)

      岩手県盛岡市大通1-1-16(019-623-3301)

 

■会  費:1,000円/1人(中・高・大学生は無料)

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「4月13日 JUHKEN FACTORY SHOP 2019」のお知らせです。

 2020年の300㎡以下の建築物への断熱義務化は見送りになるおそれが出てきました。

理由としては、現在の省エネ基準の適合率が、小規模の住宅の場合60%程度と低い水準にあること。受け入れ態勢が整っていないこと、断熱への投資の回収に時間がかかること等があげられていました。

 我々はお客様の快適さというものをさまざまな手法を駆使し提供しようとしてきました。その精神に変わりはありません。近年その快適さが環境の温度、湿度のみならず、空間のデザインや耐震性能、ステータスなどさまざまな要望を満たすようになってきています。共通の原理はあるにせよ、お客様のパーソナルな趣向は何通りにもなると思います。当社はそういう皆様のご要望に誠心誠意応えたいと思います。是非ご来場ください。

 

◆コンセプト「性能の先の豊かさを考える」

 

■開催日時:2019年4月13日(土) 9:00~16:00

 

■開催場所:盛岡地区勤労者共同福祉センター

 岩手県紫波郡矢巾町流通センター南一丁目2-7(TEL 019-638-1302)

 

●出店メーカー

アイカ工業㈱              三協テック㈱               フクビ化学工業㈱

アイジー工業㈱             サンポット㈱               ブライトン㈱

旭化成建材㈱              城東テクノ㈱               プレイリーホームズ㈱

旭トステム外装㈱            住友林業クレスト㈱            ㈱マーベックス

旭ファイバーグラス㈱          大建工業㈱                杢創舎(モクソウシャ)

㈱イケダコーポレーション        タカラスタンダード㈱           ㈱ヤマサカ

㈱イマヤマ               東商アソシエート㈱            吉野石膏㈱

㈱ウッドワン              ㈱TOTO                LIXIL岩手支店

㈱エクセルシャノン           ㈱トクラス                リンナイ㈱

㈱エコトランスファージャパン      東北電力㈱                ローヤル電機㈱

エヌビーエル㈱             ㈱トルネックス              YKKAP㈱ 

㈱オーカム               南海プライウッド㈱

㈱カナメ                ニチハ㈱

カネカケンテック㈱           日本住環境㈱

協立エアテック㈱            ㈱日本住研                ●協賛商社

クリナップ㈱              ㈱ノダ                   伊藤忠建材㈱

㈱栗原                 ㈱ノルド                  SMB建材㈱

ケイミュー㈱              パラマウント硝子工業㈱           住友林業㈱

㈱コロナ                ビッグテクノス㈱              三菱商事建材㈱

2019年3月8日 住建会講演会

 今回の住建会は、放電プラズマや高電圧工学など、ユビキタス社会や低環境負荷社会の構築の第一人者である高木浩一教授(岩手大学理工学部)に応用分野のエネルギーについてお話し頂きます。

 後半は、岩手県立大学盛岡短期大学部の内田准教授より震災から8年、住宅復旧の状況と見えてきた課題ー宮古市田老地区高台移転団地の調査より、として話題提供をしていただきます。普段耳に出来ないような内容です。

 

■講  師:高木 浩一 教授 岩手大学理工学部 システム創成工学科

 演  題:エネルギー需給の現状と課題

 

■講  師:内田 信平 准教授 岩手県立大学 盛岡短期大学部

 演  題:震災から8年、住宅復旧の状況と見えてきた課題

         ー宮古市田老地区高台移転団地の調査より

 

■開催日時:2019年3月8日(金) 13:30~16:30

      13時開場します。

 

■講演会場:㈱盛岡地域交流センター マリオス 18階 183・184会議室

 

■会  費:1,000円/1人(学生は無料)

 

お申込み方法/◎メール:segawa@tohoku-juken.co.jp  ◎TEL.019-638-4111 ◎FAX.019-637-0374

※ご参加申し込み締め切り~3月6日(水)までにお願い致します。

 

2019年1月25日 住建会新春恒例講演会のご案内

住建会新春恒例講演会のご案内です。

第1部は有限会社 伊礼智設計室 伊礼智先生には作品、手法についてお話していただきます。岩手では初の講演会となりますのでご期待下さい。

第2部は株式会社 オプコード研究所 野辺公一先生には高性能住宅の先にある「品質」の進化と題し、今後の住宅需要、我々は何をしなければならないかなどをお話しいただきます。

すでに衰退するであろう市場を肌で感じるようになってきました。講師の率直なご教示を皆さまとご一緒に考えていきたいと思います。ぜひご参加してください。

 

■講  師:有限会社 伊礼智設計室 伊礼 智 先生

 演  題:建築家伊礼智の仕事

 

■講  師:株式会社 オプコード研究所 野辺 公一 先生

 演  題:高性能住宅の先にある「品質」の進化

 

■開催日時:2019年1月25日(金)13:30~17:00

 

■講演会場:盛岡地区勤労者共同福祉センター2階会議室

      岩手県紫波郡矢巾町流通センター南1-2-7 (019-638-1302)

 

■会  費:1,000円/1人(当日受付にてお支払い願います)

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2019年「年頭所感」

2019年「年頭所感」 東北住建株式会社 社長 及川秀貴

 

 新年明けましておめでとうございます。旧年中のご支援、ご高配に心から御礼もうしあげます。そして本年も倍旧のお引き立てがいただけますよう伏してお願いもうしあげます。

 

 昨年11月に盛岡市で住建会と弊社が、室蘭工業大学名誉教授で一般社団法人新木造住宅技術研究協議会代表理事の鎌田紀彦先生と、一般社団法人パッシブハウス・ジャパン代表理事の森みわ先生との講演会を催したところ、県内外から多くのご来集がありました。

 

 鎌田先生は「100年後にも通用するエコハウス」、森先生は「温熱性能の今世紀最終基準」がテーマで、両先生のご講演はこれまでの省エネ論議が漸進的な省エネ強化にとどまることに飽きたらない、「どこまでやればよいのか」という思いに応えるものでした。

 

 ところがこの催しから一月も経ないうちに、国交省は2020年からの省エネ基準全面義務化を延期しそうだとの報道がありました。延期の対象は延べ面積で300㎡以下の小規模住宅・建築物ということですが、新築される戸建住宅の多くはそこに含まれます。

 

 義務化を見送る理由に「省エネ基準などに習熟していない事業者が相当程度いる」があります。省エネ計算のできる建築士事務所は50%程度(日本建築士連合会調査)、中小工務店でも50%くらい(リビングアメニティ調査)らしく、そこへの配慮があるようです。

 

 また小規模住宅・建築物は新築の90%余を占めるので、省エネ建築に不慣れな業者が確認申請をすれば行政側の対応が大変だという懸念も働いたようです。欧米先進国に比べ大きく見劣りする基準の改善が官民一体的なラッダイト運動(※注)で阻止されている気がします。

 

 弊社の催事や弊社員が受講する講演会でお見かけする顔ぶれが固定的なことを気に懸けてきました。地元で名の通った建築士事務所が省エネ知識の乏しいことに唖然としたこともあります。学ぶ人は学び、そうでない方はそうでないままに終わるのでしょう、

 

 行政の施策は大きな影響力を発揮しますが、どうもそれ頼みでは我が国の省エネ基準の強化、温暖化ガスの削減という喫緊の社会的使命が果たせそうにありません。高性能住宅造りに積極的な建築士、小規模事業者はすでにかなりおられ、彼らとの協働が重要です。

 

 弊社は22世紀の視点で21世紀の我々が取り組むべきことを明確に認識し、多くの連携を求め、民間先行で今世紀最終の省エネ基準設定(デファクトスタンダード化)がなるよう、今後とも微力を尽くそうと思います。

 

 消費の成熟・少子化・経済の減成長といった問題が先々に影を落とす中、消費税増税の緩和策としてクレジットカード決済に2%のポイント付与が検討されています。これが実行されればキャッシュレス決済が一気に普及するでしょう。

 

 キャッシュレス決済の進行は、商流で直接的な対人関係を必要としないビジネスを増やし、物流で距離の長短を問題としないビジネスを増やすでしょう。ここにIT技術やWEBの活用が大きく関わってきます。

 

 IoT化が進むと知らないうちに自分がだれかに支配されかねない不安、怖れを覚えます。IT社会という言葉に人間性の希薄な無機的なものを感じるのはわたしだけでしょうか? どれだけAIが発達しても人間社会は人間のものだとこだわる自分がここにいます。

 

 住宅やビル等は建築中こそ建築物ですが、建ってしまえば不動産です。これから建つ建築物とすでに建っている不動産との両方にまたがる形でリノベーション市場が出て来ました。リノベ市場の担い手には人間関係の再構築を試みる動きが濃厚にあるようです。

 

 弊社の先代は社長退任時、レイモンド・チャンドラーという作家が作中でフィリップ・マーローという探偵に言わせた「タフでなければ生きていけない、やさしくなければ生きる資格がない。」を援用し、「強いものには雄々しく、弱いものには優しく」と言いました。

 

 東北住建の社員は時々この言葉を思い出し、人と人という間柄を至高の宝物とし、リノベ市場で人間どうしの新しい社会関係が生まれつつあるように、わたしたちのビジネス社会でも相互信頼が一段と濃密な、共存・協働がある社会の構築を目指したいと考えます。

 

 鎌田紀彦先生、森みわ先生のご講演は録音し、文字起こしをしました。両先生のご了承をいただいたので、その全文が弊社ホームページでご覧いただけます。

 

 結びに、皆様のご健勝とご多幸を心からご祈念申し上げ、年頭のご挨拶とさせて頂きます。

 

※注:ラッダイト運動(1811~17年のイギリス産業革命期にイギリス中部・北部の手工業者たちが、生活苦や失業の原因を技術革新と機械導入によるものとして起こした機械破壊運動。ここでは、進めなければいけない改革、改善に抵抗する人々の動きの意。)

「二十二世紀にも使える住宅の条件」/鎌田紀彦氏

 

「100年後にも通用するエコハウス」を考える

2018/11/09 ホテルメトロポリタン盛岡 

一社)新住協代表理事 鎌田紀彦氏 

 

 

「二十二世紀にも使える住宅の条件」

《イントロ》

皆さんこんにちは。のっけからこんなことを言うのもなんですが、こういうテーマ「100年後にも通用するエコハウス」を与えられて、実は気が重くて。増してや、森みわさんと一緒でしょ(笑)。なので、まじめに考えましたよ。でもこう気が重くて緊張しているときというのは、僕の話はたいして面白くありませんから、今日はあまり期待しないでくださいね。

こんなテーマは、東大の前(まえ)先生にでも話してもらった方がいいんじゃないですかねえ。僕が今いちばんやりたいというか、やらなければならないと思っているのは、Q1.0住宅や高性能住宅が、社会的に当たり前のものとなるような地盤づくり。僕もこの先もうあまり長くありませんから、あと5年以内のくらいの間に、Q1.0住宅が全国各地でごく普通につくられるようになるという状況にしたい。そして、そういうユーザーが増えることを実現させたいと思っているところに、「100年後」でしょ。僕なんか生きているわけないし、そんな先のこと預言者じゃあるまいし、わかるわけないじゃないかというのが基本的な僕のスタンスです。

 

《日本は小エネルギー大国》

とはいえ、まあ話を始めたいと思います。皆さんの手元に今日のテキストがあると思うんですが、今まで僕が作ったテキストの中でいちばん字が多いんです。これを見れば、僕がこれからしゃべることを聞かなくてもいいように出来上がっています。

最初に前振りですが、これは前先生が言い出したんですが、「日本は小エネルギー大国」であるということ。日本の暖房エネルギーというのはこのグラフ(図1)で見てもおわかりのとおり、暖冷房のエネルギー消費は非常に少ないです。アメリカ、イギリス、ドイツに比べてかなり少ない。実はここが日本の省エネルギー住宅が進まない根本的な原因なのですね。国交省は増やしたくないのですよ。もちろん経産省も。住宅のエネルギーを増やしたくない。だからこれが、せっかく高気密高断熱住宅をつくっても全室暖房が推進しない原因なのですね。

高断熱高気密住宅をつくって、全室暖房で家じゅう寒くない快適な生活を送れるようにしようといういわば文化運動が、昭和50年代に北海道で始まりました。高断熱高気密の目的は省エネであると同時に、健康・快適な生活を送るというのが最大の目標です。北大の荒谷(あらたに)先生がその中での理論的な、あるいは哲学的なバックボーンの役割を果たしておられる。僕は住宅の構法が専門ですが、荒谷先生の云う住宅はこうでなければならないという考えを、いかに実現するかを考えてやってきました。

日本はコタツとポータブルストーブで何とか寒さをしのいで、こういう暖房エネルギー消費の結果になっています。エネルギー消費量を増やさずに全室暖房をしましょう、それを高断熱高気密住宅と呼びますよという定義で、われわれはそういう家づくりの普及を図ってきました。

 

《品確法》

品確法が平成12年頃にできまして、この法律はまあ大枠では納得できる法律ではあります。当時欠陥住宅で困っている人たちが日本中にたくさんいて、大問題になっていました。さらに姉歯事件が起きて、建築士はおかしい、住宅産業はおかしいという、性善説から性悪説に変わった時代で、ドタバタで品確法を作ったという経緯があります。

最近外国から労働者を受け入れる法律が、中身が空っぽのまま国会を通ろうとしているようですけれど、品確法は細かいところまで、どさくさに紛れて全部が詰め込まれた内容で、一気に成立した法律なんですね。しかし、どういう項目を盛り込むかは全く議論しないまま、ほとんどが当時の建設省か、国交省か、そこの建築研究所の若い研究者などが寄って、たかってバーッと作り上げました。できた瞬間に社会的な反発がめちゃくちゃ起きたのですが、そのうち中身を変えるからとか言っといて、全く変えようとしないんです。

この法律でいろんな住宅の性能を規定しているのですが、いちばん上の4等級とか3等級とかのグレードを並べてみても、こんなもの本当に必要かなというものが山のように入っています。こういうもので住宅の性能は決められないのだなと、この法律ができたことによって私は逆にそう思いました。

 

《長期優良住宅》

僕の専門は性能と構法なので、この品確法はまさに僕らの専門分野だったのですが、こう並べられるとなんかおかしいなと…。これは一戸建て住宅にはほとんど普及しませんでしたけれど、最近国も躍起になって、長期優良住宅でこの何項目かは必ずクリアしなければならないという形で、品確法の普及を図っているわけですね。

まあ言ってみれば審査機関を民間に移したから、民間機関の仕事がなくならないように、倒産しないように仕事を増やしてあげているという気がしなくもないのですが…。

その長期優良住宅には、皆さんご存知のとおり、構造安定2等級、温熱環境4等級、劣化、維持管理などがあります。長期優良なので劣化維持管理は必要ですが、「防火耐火」の項目がない。長期優良住宅は燃えてもいいのかという話になりますよね。それから、バリアフリーがない。なので、長期優良住宅というのは変なコンセプトだなあと思ったりするわけです。

 

《国民は住宅に何を求めるか?》

では、国民は住宅に何を求めるのか? ちょっと前に前先生が卒論か何かでアンケートを取って、家をつくるときの関心事というのをリストアップしていましたが、一般的には坪単価、予算、間取り、プランニングとかその辺のことが出てきて、あとはいきなりデザインが出てくる。バリアフリー、地震・雷・火事・親父はごく普通に対処するとして、省エネ、快適性などは関心事としてはいちばん下のほうに来るというのが、まあ普通でしょう。

南のほうに行けば行くほどこういう傾向が強まってくる。高断熱高気密を嫌い、省エネ基準が義務化されるという話が出たときに、それを嫌がって、何か別のことにユーザーの目を向けようとする。「木造りの家」だとか、「漆喰の家」だとか、何か別なことを持ち出して、高断熱高気密から目をそらさせる、そんな風潮がいまでも日本中にあふれているわけです。

ただ、ユーザーには快適性とか省エネというものがずいぶん浸透してきました。だから最近ではこういう項目がずいぶん順位を上げて、実現させる人も増えてきているわけですよね。おもしろいのは、こういう優先順位で家を建てようという際、実は設計士、あるいは工務店が、ひそかにQ1.0住宅レベルで作ってしまっているケースがある。ユーザーが実際そういう家に住んでみると、デザインに満足、間取りに納得とかそんなものどうでもよくなって、とにかく家の中が快適で電気代もかからない、これはとてもいい、こういう話が多いですね。

そういう例を、新住協の事務局長の会澤さんが、新住協の工務店が建てた家を取材しながら本にまとめています。ユーザーの心理がずいぶんよくわかる本です。ぜひご覧ください。とくに、高断熱高気密住宅やQ1.0住宅をつくったことがない方にぜひ読んでいただきたい本です。

 

《省エネ住宅》

省エネ住宅、住宅の省エネ化、こういう話は昭和50年代の第一次オイルショックのころから盛んに言われるようになりました。第一次オイルショックの時は、石油資源はあと40年で無くなるといわれた。それから40年たちましたが、今度は、石油資源はあと70年で無くなるというバカな話になりました。でもいつの日か、石油資源は無くなるのだろうと思います。

近頃の省エネの目的は、地球温暖化防止、あるいは地球の環境負荷を軽減しましょうという方向になっています。個人でもそういう時代の目標に賛同して、何かやりたいと思っている人はとても多いですね。住宅に関していうと、快適・健康な住環境。省エネによる光熱費の削減。そして何よりも、一生の安心が得られること。たぶんこれが大事なところだと思われます。

こういうことに対して、国は真正面から取り組んでいるとはとても思えない。国交省が全室暖房を嫌っている事態はずっと続いていますし、なによりも原発をベース電源として15%確保するという姿勢を頑として変えないわけですね。原発を再稼働するにあたって1基あたり1000億とか2000億とかの金を使ってでも電力会社は再稼働したい。あの金を別な方に向けたら、原発なんて再稼働しなくてもよさそうな気がするのですが、それでもそれはやらない。

たぶん自民党の右翼の政治家は原爆を保有したいのですね。そうとしか思えないような政策に見える。阿部さんは、電源を安定させておかないと日本の経済は成り立たないみたいなことを言いますけれど、北海道の地震では電力会社が厚真の石炭火力に集中していたがために、あそこがやられたら即ブラックアウトですものね。

そしてソーラーだってZEHをふくめ、メガソーラーをガンガン増やしても、それがべらぼうに増えたときにどうするかという手当をしないまま増やしています。九州はついにソーラーの発電中止要請を出したわけでしょ。こうなるのはすでにわかっていたことで、その時どうする、そのためにはさらにメガソーラーを増やしていくには何をしなければならないか。ドイツなどの先進国の事例でわかっていたにもかかわらず、日本はそういうことは一切していないわけですよ。こんな不思議な国は、ほかにないような気がします。

エネルギー分野の人たちは、小規模分散でエネルギーを供給しようとしています。これが安全にもなるし、脱石油、脱原子力の切り札にもなる。日本でも一部でごみ発電をやってはいますけれど、すべてのごみ焼却所でごみ発電をやって、ごみ発電で出る熱も周囲の住宅や建物に供給できるように体制を整えれば、これで省エネが大いに進むわけですよね。それに似たことが山のようにあります。

ヨーロッパでは汚水処理場で汚物からメタンを取り出して発電をしたりしています。日本ではまだほとんど行われていない。日本はミニ水力発電の開発なんかも本当はやらなければならないところ。もし一つ1億円でミニ水力ができたら、1000億円あれば1000ヵ所できますから、そうすると軽く数十万キロワットの発電ができてしまう。わかっている人たちは国の政策にとても不満を抱いていて、でもそれを発表する場がほとんどないというのが日本の現状だと思います。

 

《ZEH》

ところで、ZEHは屋根の上にあんなに太陽光発電を載せる必要があるのだろうかと、僕個人的には思っています。というのは、これほど高い値段で電気を買い取るなんてことがいつまでも続くわけがないと言っていたら、とたんにグーっとしぼんできましたよね。ZEHのムードができてきたからこれからも続くんでしょうけれど、補助金がなくなっても、果たしてZEHは続くのか。この辺で尻つぼみになったのではこれまでやってきたことが何だったのか、全然わからなくなる。

東日本大震災や、先ごろの北海道の大地震を見ても、災害対応として、住宅にエネルギーレベルで何か手を打たなければならないということが如実に感じられます。北海道の地震の際は、ZEHであるかどうかは別として、ソーラー発電を屋根に載せた家は、冷蔵庫は動いてテレビも見られるし、スマホも充電できる。こういう家がずいぶんあったようですね。あの地震以来、札幌の住宅では、ほとんどの屋根にソーラーが載るのではないかというぐらいの勢いがあるそうです。考えさせられるところは多々ありますが、全ての住宅でそれができる訳では無い。

設備関連というのはものすごい勢いで技術が進歩して、どんどん変わっていきますから、100年なんてそんな遠い将来のことなんか到底わからない。今ある設備の中でなにがいいか、10年後、15年後にはもっといいものが出ているでしょう。そういう世界の中にいます。

 

《Webプログラム》

建物単体の中で、とにかくエネルギー消費を少なくしていくことには誰も異存はないわけです。国もWebプログラムを使って、一次エネルギーという形で、暖冷房と設備によるエネルギー、これを計算できるようになりました。しかし、このWebプログラムが問題です。

Webプログラムを使った2年前ぐらいの計算ですが、手元の資料をご覧ください。2地域の岩見沢と6地域の岡山です。Webプログラムでは、2地域の都市は全部いやおうなしに岩見沢の気象データで計算している。同じように、6地域は全部岡山の気象データで計算している。だからずいぶん誤差が大きいわけです。

いちばん最初に基準値があって、その基準値より少なくなければならないというルールで、Webプログラムで一次エネルギーの計算をしているわけですが、省エネ基準住宅をつくると、簡単に基準を満たすようです。Q1.0住宅のレベルはあとでご紹介しますが、レベル-1でやると減って、レベル-3にするともう少し減るのですが、住宅の性能を上げた割には余り減らないのです。それをわれわれが使っているQPEXで計算すると、このように大幅に減少します。われわれのプログラムで計算した暖房エネルギー結果というのは、住宅の実際の生活で測定したデータとかなり合っているんです。

Webプログラムでは、住宅の性能を上げても数値はあまり減らないということになる。ところが、それで全室冷房をすると冷房エネルギーがべらぼうに増えるという計算になる。繰り返しますが、国交省は全室冷暖房なんて考えていません。間歇冷暖房というメニューがあって、それにするとこんなにエネルギーが減りますよ、だから間歇冷暖房の生活をしてくださいと言わんばかりです。でもQPEXで計算すると、間歇冷暖房より全室冷暖房のほうが少ないというバカな計算結果になってくるんですね。それがすごく不思議。

一方、設備によるそのほかのエネルギーですね。調理、家電は定数になっており、換気動力は直流モーター仕様にすると無視できるくらい小さくなります。照明はLEDが普及して十分省エネになっていますから、給湯だけが問題です。給湯は色々な省エネ手法が提示されていますが、それを全部選びソーラー給湯までのっけてようやく3割から4割減るという状況で、なかなか減らないんですね。これが結構大きい。省エネ基準住宅ぐらいで考えると、この設備と暖冷房が同じくらいですが、住宅のレベルを上げていくと暖冷房エネルギーは急速に少なくなって、設備エネルギーがなかなか減らない。こういう構図になっています。

ですからすでにQ1.0住宅レベル-1、レベル-3を実現している人にとって、課題は、設備のエネルギーをどうやって減らすかが問題なのです。設備系は、まさに時々刻々進歩し、機械もどんどん変わっている。そんな中で省エネをどう実現するかというのが、住宅にとっては大きな課題です。

逆の言い方をすれば、暖冷房がこれだけ小さくなれば、ほかのものがもっと小さくなってもその差はわずかですから、住宅本体の性能レベルを十分あげれば、他は余り気にしなくてよい、というのが僕の基本的なスタンスなのですが、その辺をもう少し詳しく実証したいと思います。

 

《AE-Sim/Heat》

日本は暑いとことから寒いところまで、気候が幅広く存在します。コンピュータの熱計算プログラムとして、研究者の間ではいまいちばん使われているAE-Sim/Heatというプログラムで暖冷房エネルギーを計算したデータがありますが、この表は、これを使って住宅の性能レベル別に暖冷房エネルギーを計算したデータです。下が北海道で上が九州です。省エネ基準住宅が、暖房と冷房がこんな割合になります。Q1.0住宅レベル-1をレベル-3にすると暖房は急速に減って、しかし冷房は減らないんですね。南のほうに行くとほぼ暖房はゼロに近くなりますが、冷房はこれに比べてもなかなか減らない。でもこれは当たり前ですよね。室内に入った太陽熱、人間から発生する熱、家の中で使う電気から発生する熱、これらは暖房の場合は削減に働きますけれど、冷房の場合はそれがまるまる冷房負荷になりますから、そこをなかなか減らすことはできない。

あと面白いのは、レベル-3で冷房と暖房を足すと、日本中どこの地点でもほぼ同じくらいですね。暖冷房はここまで減らすことができるけれど、設備のほうがなかなか減らないというのが問題です。

いまWebプログラムで一応計算できるようになったのですが、計算の精度というか、計算結果の数値が、われわれからすれば全く信用できない数値で、しかも過大に出てくる。これでは何のためのプログラムかわからないですね。いろいろ分析している中で、全室冷房をやると冷房負荷が非常に大きくなる原因はようやくわかったような気がします。省エネ基準の計算は、春の暖房が終わるころから、秋の暖房が始まる頃までを冷房期間として、その間窓を閉め切って冷房負荷を計算します。住宅は高性能になればなるほど、ほんの少しの熱で室内の温度が上がります。春と秋はそんなに暑くない。でも日射が入ってくると温度が上がって、冷房負荷が発生する。実際の生活では、春秋は窓を開けて、冷房をかける人なんかいないわけですよね。それなのにプログラム上は、冷房をかけて、冷房負荷をわざわざ足し算している。これがどうもおかしい原因の一つのような気がします。まあいろいろあるのでしょうが、使い物にならんなあというのが、僕らの正直な感想ですね。

 

《UA値、本来の省エネ住宅》

住宅の性能をUA値で規定して、UA値いくら以下なら省エネ基準OK、あるいはZEH基準OKという格好で、UA値を計算するプログラムもパブリックで出ています。いろんな雑誌や記事で、みんなUA値UA値と言うものだから、UA値が小さければ住宅の性能が高いと勘違いしている人がいます。UA値は建物の外皮の断熱の厚さを表現していますから、UA値が小さいと、住宅躯体の性能は高くなるのです。しかし、UA値が小さいからといって、必ずしも暖房エネルギーが小さくなるわけではない。設計が下手だと結構大変な暖房エネルギーになります。

本来の省エネとは、暖冷房エネルギーを少なくすることが目的ですから、われわれはQ1.0住宅でダイレクトに、暖冷房エネルギーが省エネ住宅に比べて50%以下とか30%以下とかという規定をしています。暖冷房エネルギーで住宅の性能を規定するのが本筋なのですが、その本筋をやっているのが、日本ではわれわれ新住協とパッシブハウスだけなのですね。

 

《省エネを標榜する住宅》

省エネルギーという言葉で世の中にはいろんな住宅が紹介されていますが、その中身をちょっと見てみると、こんなものが代表的なものとして出てくると思います。

まず全くエネルギーを使わない住宅というのは、現代の文明の中では対象外。そこで僕らの頭に真っ先に浮かぶのは、自給自足、最小限エネルギーで生活する、いわゆるこれが本来の意味でのエコハウスですね。ヨーロッパでエコハウス運動が始まったのは40年くらい前でしょうか。たとえば断熱材はグラスウールだの発泡スチロールだのは使わないで、その辺の畑でとれた麦わらで断熱するとか、壁は土壁を塗るとか。まあいろんなことをやって、いわゆるエコな生活、エコな家というコンセプトがあります。

ドイツには「エコハウス」という雑誌があって、こういう情報が満載です。われわれからすると何となくエコオタクに見えちゃって、日本でこれを実現するのはとても難しいと思います。

もうだいぶ経ちましたが、国はつくばでLCCM住宅というのをぶち上げて、実験住宅をつくりました。LCCM住宅というのは、「ライフサイクルCO2マイナス」。建設時から居住時のランニング、それから維持管理の費用。いろいろな建材をつくるのにもエネルギーがかかっていますから、そういうエネルギーをすべて計算して、太陽光発電などを使って、100年間でネットマイナスになる住宅。これをLCCM住宅といいます。これは、太陽光発電を載せた住宅の中でもかなり高いレベルの住宅でなければ実現しないわけですね。

ゼロエネルギー住宅。いわゆる本当の意味でのゼロエネルギー住宅。あるいはゼロじゃなくてプラスエネルギー住宅。太陽光発電とランニングのエネルギーとをプラスマイナスしてネットマイナス、あるいはネットゼロにする。これも高性能な住宅でなければ実現しないわけです。

いまから15~16年前、スウェーデンのハンス・エークさんという人が日本中を講演して説いたのが、無暖房住宅。住宅の性能としてはいちばん高い住宅になると思いますが、いわゆる暖房エネルギーゼロの住宅。ただ、冷房はこの時は全く考えていないですね。日本は先ほど話したように冷房費は減りませんから、無冷房、無暖房住宅は、日本の主要な地域では実現不可能。

そしてここにパッシブハウス、あるいはわれわれのQ1.0住宅がきます。これは、無暖房などという超高級レベルは目指さずに、普及レベルでできるだけエネルギーを小さくした住宅をつくっていこうというコンセプトです。

続いてここに日本のZEHがくるのですが、まあ怪しいこと限りない。あれにゼロエネルギーという言葉を付けることさえ嫌だというか…。まず家電のエネルギーを除くというのが嫌なわけです。家電エネルギーを除いたことによって、住宅の性能がそれほど良くなくても、太陽光発電を山のように載せれば実現しちゃいます。経産省はこういうものでムードを作るわけです。太陽光を作っているメーカーが潰れそうだから何とかしようという、そういう政策ですね。住宅の屋根の上で発電して、日本の発電をそっちに切り替えようなんて、そんな量ではありませんから、もう全然話になりません。ポーズだけそういうふうに見せていますけれど。

あとは似非省エネ基準住宅。それから、エアナントカ工法。フランチャイズなんかでありますね。これはまさに似非省エネ住宅。省エネ基準住宅よりもさらに性能の低い住宅でしかない。

 

《ドイツのパッシブハウス基準を日本も目指すべきか?》

こういういろんなものがある中、できるだけきちんとしたものとして、われわれはどの辺のレベルを目指せばいいのかというのを少し検討していきたいと思います。

今日はここに森みわさんがいらっしゃいますが、ドイツのパッシブハウスの基準を日本も目指すべきか? これは意見の分かれるところです。日本は気候区分がとても広い〈図参照〉。ここからここまであるわけですよ。沖縄はもうちょっと南ですけれど。このグラフをパッシブハウスのボスであるファイスト先生に、いまから10年くらい前にドイツで見せたら、「いやあ、日本って広いね。こんなに広い分布は世界中でアメリカくらいだよ」と驚いていました。ドイツはだいたいこんな感じじゃないかと、それが正しいかどうかよくわかりませんよ、パッと見て、(グラフに)丸を描いただけですから。相当いい加減だとは思うのですが。

日本の人口の8割は半分より南に住んでいます。盛岡とか東北は半分より少し上。いちばん前の席に西方君がいますが、西方くんの能代はこの辺。自分の家を建てて話題になっていますが、設計の時点でパッシブハウスの認定を取ろうとかなり頑張ったけど、到底無理なのでやめましたね。会場後ろのほうには北上の「木の香の家」の白鳥くんがいますね。白鳥くんもなんとか自邸をパッシブハウスで建てようと、ノイローゼになるくらい頑張ったけれど、結局諦めた。

ファイスト先生はスウェーデンでパッシブハウスを考えて、スウェーデン基準をドイツに持ってきたという感じですが、北海道はスウェーデンより寒いのですね。そんなこともあって、日本全体でパッシブハウス基準は実現するのはなかなか大変です。ただ日本の南の方では楽勝でできそうな気がしますね。Q1.0住宅はレベル-1からレベル-4まであって、レベル-4は、温暖地ではパッシブハウス基準にずいぶん近いと思っています。

 

《つくばのLCCM住宅》

先ほど言ったLCCM住宅の悪口をもう少し言わせてもらうと、これがつくばの住宅ですね。実は北海道の武部建設とか工務店の人たちと僕も見学に行きました。どんなものか全く知らずに、いきなりこの建物の前に行きました。瞬間に「あ、これはダメだ」と思いました。こんなバカな住宅がLCCM住宅を実現できるわけがないと、瞬間的に理解しましたね。

北海道ならわかるのですが、つくばですからね。夏暑くなって大変ですよ。しかもブラインドが中にありますからね。案の定、この住宅はできてから2年間色々な測定が行われましたが、最初につけたエアコンだけでは全く足りず、所定の温度まで下がらなかった。

そして何より嫌だと思ったのは、ここ。建材で製造にいちばん大きいエネルギーを使うのはコンクリートなのですね。めちゃくちゃエネルギーを使ってセメントを作ります。コンクリート量を減らすために、南のサンルームのゾーンには基礎がありません。それでどのくらいコンクリートが減るか知りませんけれど、この分、すべて出窓扱いですからね。これは明らかに基準法違反ですね。これを出窓って言う人は誰もいませんからね。建物の外周は基礎が回っていなければならないのに、こんな基準法違反が何で建つのだろうという気もしました。

僕はしつこいですから、公開されたデータをQPEXで計算してみました。すると暖房と冷房はだいたいこのくらいになり、冷房がめちゃくちゃ大きい。内ブラインドを外ブラインドに変更すると、かなり減る。サッシをアルミPVCにしても暖房が減ります。

そしてなんとこの住宅、図面を見ると壁の中が150㎜分あるのに、そこに90㎜しか断熱材が入ってないのですよ。90㎜ってなんだかわかりますか? 3地域の壁の断熱基準です。省エネ基準を越す厚い断熱は拒否しているわけです。建築研究所(国立研究法人)の中には厚い断熱を忌み嫌っている人たちがいまして、断熱が厚くなると熱がこもって冷房負荷が増えると今でも思っている人がいる。そういうバカな世界。

さらに熱交換換気も採用していない。南窓面積を減らしてやると、まあ多少冷房負荷は減るでしょうが。しかしなによりも壁を150㎜、200㎜にすると、暖房エネルギーは限りなくゼロに近づきます。これぐらいの性能になってくれるとLCCM住宅も可能になるのですけれど、こんな設計をしてしまうのですね。まあこういうふうに日本の建築研究所の人たちは省エネ住宅を全く理解していないという現状があるわけです。

 

《無暖房住宅》

 スウェーデンのイエテボリのハンス・エークさんの無暖房住宅、これは僕も見に行って、ハンスさんのお話も伺いました。無暖房住宅が何かもわからないまま行って、すごいな、すごいことやるなと思いました。でも行ってみて、ああそうか、タウンハウスなのだと。タウンハウスだからできたのかもしれない。

ちなみにスウェーデンのイエテボリというところは、12月から3月までの平均気温がほとんど変わらなくて、マイナス1度くらいという気候です。札幌はそれよりだいぶ寒いし、しかも一戸建てではこれはちょっと無理。ここに外壁の断熱材が43㎝、屋根の断熱材が48㎝、土間下25㎝、窓はU値が0.85、こういう構成です。こういう構成でもイエテボリなら、しかもタウンハウスなら無暖房が可能ということは理解できます。

これを日本の一戸建て住宅で、北海道や北東北3県でつくろうとすると、とんでもないことになりそうな気がします。ハンスさんが札幌、東京、大阪、福岡など4ヵ所でセミナーをやりまして、それを真似して、長野とかいろんなところに無暖房住宅が建ちましたよね。モデルハウスで。

僕がちょっと疑問なのは、何をもって無暖房住宅というのか。暖房エネルギーが完全にゼロというのは、かなり厄介ですね。無暖房を実現するためには、室内の発生熱のほかに太陽熱に期待しているわけですが、日本は冬寒くて、しかも吹雪いたりして太陽が全く出ない日が3、4日続くときは、ざらにありますから、その期間に無暖房になるのは大変だなあと思います。これはどういう計算をしているのだろうかというのは、僕にはまだちょっとわかりません。

 

《ZEH》

あと、ZEHがいかにいい加減かということを話すのはもう面倒くさいから止めます。ここは資料を見ておいてください。でもまあ北海道はNearly ZEHという、75%を太陽光で賄えば補助金出しますよという制度がありました。今もあるかどうかはわかりませんが、その流れで北海道でもわりと普通にZEHが建てられるということになりました。逆に東北3県、4地域はそれがないために、日本でいちばんZEHを建てるのが難しいのが東北3県です。

 

《全室暖房時の灯油消費量》

省エネ基準住宅は、平成11年に次世代省エネが決まって、それでモデルプランで計算してみると、全室暖房、しかも20度ではなく平均18度の全室暖房で計算すると、これくらいの灯油消費量になります。盛岡はこの辺ですね。なんと日本でいちばん灯油消費量が多いのは青森という変なことになっています。実は、北海道の次世代省エネ基準は北方型住宅に準じて決めました。青森以南の本州は東京の研究者の先生方が決めた。北海道は北海道で勝手に決めたわけですよ。だから一般住宅の暖房エネルギーよりは、北海道だけが少なくなる。本州全域にわたって省エネ基準住宅をつくると、全室暖房をすると、エネルギーは増える。で、次世代増エネ基準という…。

 

《Q1.0住宅》

国交省は、全室暖房なんか目指していません。今までどおりコタツと石油ストーブの生活をしてくださいと言っているわけです。高断熱高気密住宅の欠点は、ファンヒーターが使えないこと。排気ガスを家の中にまき散らすなんて、換気システムだけでは無理ですからね。

われわれは少なくても一般住宅より少ないエネルギーで全室暖房ができるように、そういう住宅を高断熱高気密と呼んで家づくりを始めました。今から30年前に。そして20年前に次世代省エネ基準ができた。これが増エネ基準でしか無かったので、10数年前に省エネ基準の半分以下で全室暖房が可能になるような住宅をつくろう。これにQ1.0住宅という名前を付けました。

Q1.0住宅というとQ値を1.0にする住宅と勘違いされることもありますが、そうではなくて、暖房エネルギーが省エネ基準に比べて半分以下。そういう住宅を北海道でつくるとQ値が1.0前後になるものですから、それでQ1.0住宅という名前が付きました。

省エネ住宅を実現するときには、住んでみたユーザーがはっきりとこれが住宅の省エネ効果だと認識できるくらいの、レベルの住宅をつくる必要があるだろうと思いました。それが、さっき言った半分。それをQ1.0住宅の最低基準にして、それよりもっとグレードの高い基準も決めたわけです。

レベル-3、レベル-4あたりまでの4段階に決めた背景には、やはりパッシブハウスの圧力は相当ありましたよね(笑)。かたやパッシブハウスがすごい住宅になっていますから、やはりそれに近いレベルまで、グレード別に並べて、どの辺かを選択できるようにしようという思いでやってきました。

自動車ではハイブリッドカー、エコカーが全盛です。昔のリッター10kmの車が、今リッター20kmが当たり前になっているという世界で、ユーザーは毎月のガソリンの支払いが半分になるものだから、これを実感しているわけですね。ただ、ハイブリッドカーは50万円~60万円高くなることには目をつぶっています。その50万円~60万円は、年に1万kmしか走っていないとすると、10年乗っても元が取れないというバカな話しが日本中を覆っているというこの事態は何なのだろうと思うのですが。住宅も同じようにブームをつくりたいですね。

 

《各地域区分内の灯油消費量》

高断熱高気密住宅はお金がかかります。Q1.0住宅も。お金をかけても年間の暖房費が半分になる、そうなればいいなと思います。そうなればユーザーもその効果を実感して、その気になるんじゃないかと。今こういう人たちを増やそうとしている段階です。先ほど触れたQ1.0住宅のレベル-1を意識的に、南の方は灯油消費量が少ないですから、省エネ基準に比べてさらに削減率を増やして、北海道は55%、3地域50%、4地域は45%、5~7地域は40%以下で全室暖房ができるようにしよう。それから10%刻みでL1、L2、L3、L4と決めたわけですね。

盛岡は3地域ですね。3地域で見ると弘前が、いちばん灯油がかかるのですが、まあレベル-1で灯油600ℓ位。レベル-2で500ℓ、レベル-3で400ℓ、レベル-4で250ℓ、位で考えている。

Q1.0住宅を始めたとき、新住協の会員にこう呼び掛けました。これから10年以内に、全棟Q1.0住宅にする。Q1.0住宅よりレベルの低い住宅はもう受注しないでほしい。そういうことのできる体制をぜひ作ってほしいと。それを実現したのは今50~60社くらいですかね。もう少し多いかもしれません。現時点では、2020年までには、200~300社くらいはそういう体制にしようとがんばっているところですね。

レベル-1を早々につくった人たちが、やがてレベル-2、レベル-3の住宅をつくっていくわけですが、レベル-3くらいになると、家の中に入った時空気が違うという声を工務店の社長が現場で耳にするわけですよね。お施主さんもいきなりレベル-3の家に入るわけですよね。レベル-1に住んでみてそれからレベル-3という人はあまりいませんから。その違いは何なのかというと、たぶん床・壁・天井の温度が0.5度くらい高くなって、環境の質が変わっているのだと思いますが、このへんはぜひ前先生に評価していただきたいなと思っています。

 

《Q1.0住宅の基本工法》

高断熱高気密を30年やってきましたが、高断熱高気密の基本工法を現在の在来工法に合わせて改良して、これを標準工法としてやっていこうと新住協の会員に呼びかけました。2年ほど前ですが。そしてグラスウールメーカーにも呼びかけて、今年硝子繊維協会がGWS工法という名前を付けて、各社の標準にしようとしているところです。

なにが違うかというと、石膏ボード12.5㎜をとにかく桁まで全部張りあげる。これは省令準耐火の仕様ですね。12.5㎜使えば耐力面材にもなるから、足元のおさまりを決めて、石膏ボードを耐力面材として、外側は構造用合板という形にすると最低でも3.5倍くらいの耐力壁になります。そうすると筋交いが一切いらなくなる。筋交いは廃止して面材だけで耐力を作っていきましょうということです。

省令準耐火を最低基準とはしませんが、省令準耐火に移行するのはごく簡単にできる。何よりも大事なのは、プレカット工法でうまく発注すれば、プレカット工場から出て来た木材を大工さんがすんなり組み立ててくれれば断熱性能はきちっと出て、しかも初めての大工さんでも気密性もC値が1.0くらいは実現できるということですね。

 

《Q1.0住宅の省エネ手法》

この標準工法に、必要な厚さの断熱材を入れ、窓の仕様を決める。そして熱交換換気を使っていくというのがQ1.0住宅の基本的な考え方です。熱交換換気で十分省エネ効果が得られるために、C値を1.0以下にします。

とにかく高気密躯体を作って省電力な熱交換換気を使う。開口部の性能を省エネ基準よりかなり上げて、しかも方位で上げ方を変えていこう。そして躯体の断熱材は必要なだけ増やしますよという考え。これをQPEXで計算しながらやりましょうということです。3地域でいうと、省エネ基準住宅に比べて、熱交換換気導入でだいたい20%から25%くらい暖房エネルギーが減ります。開口部でいろいろ考えてやると、20~25%前後。躯体の断熱で8~25%、合計で70%削減。これでレベル-3の住宅が出来上がります。

 

《Q1.0住宅をつくるための技術開発》

われわれは長い時間をかけてQ1.0住宅のためのいろいろな技術を開発してきましたが、簡単に紹介しますと、まずベタ基礎形状の基礎断熱。ベタ基礎の構造計算を西方事務所の協力でやってみると色々な問題点があることが分かり、これを解決すべく、M‘s設計の佐藤さんとこの1年くらいだいぶ一緒にやりまして、非常にシンプルで、鉄筋量の少ない基礎設計ができるようになりました。下に詳細な内容を書いています。

 

《床断熱工法》

基礎断熱とは別に床断熱ですね。日本の温暖地では床断熱のほうが住宅ははるかに安くなるし、熱性能も上げやすいので、床断熱をやろうということです。ただ、日本中が大引きの上に厚い合板を張るという、剛床構法が90%位も普及しています。大引きの寸法を越える150㎜くらいの断熱にしたいということで、図のような金物を作りまして、大引きの下に断熱材をぶら下げるというスタイルにしました。

床断熱工法では、お風呂と玄関まわりだけは基礎断熱という形でずっと長い間行われてきました。しかし玄関のコンクリートをやめて、木造床にしてしまえば、玄関廻りの断熱もすっきりする。一方お風呂の基礎断熱は、範囲を広げて水まわりは全部基礎断熱にした。そうすると水道配管などが断熱気密層を貫通するという面倒くさいことがなくなって、とてもシンプルになりました。全部床断熱にするのに比べると基礎断熱エリアの熱性能が少し悪くなりますが、基礎断熱より熱損失が少なく、コストも安くなります。

 

《200㎜工法》

北海道では、外壁の断熱は最低で200㎜必要なわけで、会員の手でいろんな200㎜工法を試験施工しながら行きついたのがこれ。こういう形で横桟をビス留めするのですが、横桟を900mmピッチにすると非常に手間が少なくて済み、コストも安くなるということがわかりました。これで坪1万円アップという目標を立てていますが、いま坪1万円ちょっとかかっている。

図面はこのようになりますが、壁のU値が0.2くらいですね。この200㎜断熱にはバリエーションとしてもう一つあって、付加断熱を50㎜2層に分けてやる工法です。50㎜横下地1層目、900mmピッチ。その上に縦下地を455ピッチで入れる。こうすると通気胴縁は普通の18㎜でよくて、縦でも横でも打てますから、外装材も縦でも横でも張れる。

この工法で1層目に、性能の高い発泡断熱材を入れれば、もっと性能は上がってGW250mm級になります。それじゃここに、だまって発泡断熱材を75mm外張りすれば、簡単じゃないかということになりますが、それでは火災時の安全性が問題になる。この工法なら不燃のGWで可燃の発泡断熱材をサンドイッチにして、火から守ることができる訳です。

外張り工法って、通気層から火が入って燃えちゃうのですね。防火構造の認定は取れていますよ。あれは通すための認定試験ですから、かろうじて通ってはいるのですけれど、通気層から火が入って、延焼したという事例は結構あります。そればかりか、窓からのフラッシュオーバーの炎が通気層から入って外側から燃えてしまう。その家が火事を出した場合ですね。去年あった、イギリスの超高層マンションの火災と同じ話ですね。外張り工法というのは常にその危険にさらされているわけです。その事例が10年ほど前、秋田でありました。家族4人亡くなりました。

ということで、われわれは外張り工法のように通気層を介して外に可燃性の断熱材が露出するような工法はできるだけ避けようとしています。しかし、外側にグラスウール50㎜かぶっていれば、いいじゃないかということで、そういう工法も今やってみています。

さらに北海道では、100㎜を発泡剤断熱材にして、50㎜をグラスウールという具合にすると、ほぼ300㎜級の断熱性能になる。こんな感じで、いろんな外壁断熱工法も開発してきました。

 

《壁付け型カセット熱交換換気システム》

さらに、カセット型の熱交換換気システム。ドイツ製のように90%を超えるような熱交換効率はないのですが、それでも80%くらいはある。何よりも懸案事項だったフィルターの掃除が、脚立に乗って天井でやるのではなくて、手の届く範囲でできる壁掛け型を作ってくれということを長い間お願いしていまして、ようやく数年前にできました。基本的にはこれを2台設置します。半分壁埋め込みのような感じで。少し大きくなったので、小さな住宅ならこれ1台でも済みそうです。

最近、熱交換換気について、北海道の福島君がかなり攻勢を強めています。僕がパッシブ換気なんて「くそくらえ」だと言っているのに対し、彼らは熱交換換気なんて「くそくらえ」だと言っています。これからちょっと論戦を張らなければならないと思っています。

ほとんどの居住者はフィルター掃除なんかしないから、結局換気不足に陥ってしまうよというのが彼らの論点。スウェーデンでも過去にそんな例はたくさんあって、ドイツはどうか知りませんが、確かにフィルター掃除しなければ全く役に立たないわけです。フィルターをどうやって掃除させるか、これは大きな課題です。

新住協では、昔、第3種換気扇のフィルターが目詰まりして換気不良を起こしているという事例がありました。山形のある工務店が思い立って、それまで自分が建てた100軒の高断熱高気密住宅を全戸回って点検したところ、95%が換気不足になっていたということです。この辺はこれから真剣に考えなければならないところです。

 

《暖房設備のローコスト、簡略化》

暖房設備のローコスト、簡略化。ファイスト先生のパッシブハウスがまさにこれをやっています。ドイツは温水暖房のセントラルヒーティングが標準ですから、パッシブハウスは熱交換換気で各部屋に新鮮な空気を送る。この空気を60度くらいに加熱して送れば、家じゅう暖房ができる。そのために年間暖房負荷を15キロワット/㎡以下にする。そうするとパッシブハウスは各部屋のパネルヒーターと配管がいらなくなる。その分のお金を断熱窓に廻せるというのですけれどね、ドイツのパネルってすごく安いから、そんなもので断熱窓の費用が出るかなと、ちょっと僕は信じられない気がします。

ただそれを日本に持ってくると、日本にはコタツしかありませんから、財源にはならないのですね。北海道は温水暖房が普及していて、坪2~3万円位で施工していますから、これがストーブ1台で済むと、すごくコストダウンになって、その分断熱に廻すことができる。

いずれにせよ家全体を快適にし、さらにローコストな暖房システムとしては、新住協で作り出した床下暖房だと思っています。床下暖房というのは新住協が作り出した技術です。事の発端は、西方くん、池田建築店が能代でやった、FFストーブを床下に半分突っ込んだというのがいちばん最初です。

それからもう30年近くたつような気がしますが、その中でいろいろな改良が進みました。エアコンでやる方法、FFストーブでやる方法。温水暖房で床下暖房もやりました。

そのほかに、ストーブ1台暖房も試みました。結局この方法は家じゅう結構暖まるけれど、ストーブに戻る空気が冷たく、快適にはならないのでいったんこれをボツにしたのですが、Q1.0住宅は、当時われわれが実験した住宅より3分の1くらいの熱損失に減っていますから、Q1.0住宅なら行けるのでは無いかと、今年札幌で実験をしてみることにしています。

新住協の事務局にいる久保田君が自宅を設計して、今基礎まで出来上がっています。この家も30坪くらいですが、ストーブ1台を床の上にポンと置いただけで家全体がどのくらい暖まるかを実験しようとしています。

 

《床断熱住宅の暖冷房》

これまでが暖房の話ですが、関東以西では暖冷房が必要です。温暖地では床断熱の方が有利で、その床断熱で、2階の床下をチャンバーにして上下に風を吹き出して、冷暖房しようという考え方を提案しています。新潟のオーガニックスタジオの相模さんは、このシステムで、コンパクトな住宅をつくって、今年の夏冷房でデータを取ったら、1階2階の各部屋の温度が1度以内の差に収まった、非常に温度分布がよかったという報告をしてくれました。暖房のデータは今年の冬に取る予定ですが、床断熱でも快適でローコストな冷暖房ができるような気がします。

 

《Q1.0住宅の普及》

これまでいろいろな技術を開発しながらQ1.0住宅の普及を目指してきたわけですが、ここで、全国各地域での断熱仕様を検討したものをご紹介します。

Q1.0住宅のレベル-1を全国でだいたいどんな仕様になるかというのを並べてみたら、なんと1地域から3地域までほぼ同じ仕様。4地域から7地域までほぼ同じ仕様という結果になりました。(表参照)4~7地域では外壁の断熱は105mmで可能になります。もう少し詳細に計算してみると5地域と4地域の日本海側はちょっと厳しいということもわかりました。

レベル-3の住宅になりますと、1~2地域の外壁が250mm級になり、3地域以南はすべて200mm級の断熱です。窓は1~4地域および5地域の日本海側はPVCサッシにトリプルガラスを必要ですが、6~7地域の日本海側はPVCサッシにペガラスの仕様でOKです。5~7地域の太平洋側はアルミPVC複合の断熱サッシで可能です。(表参照)外壁の断熱厚が北海道以外では200mm級が必要ということにはなりますが、将来に備えてのQ1.0住宅の一つの象徴なのかもしれません。

 

《寿命》

ところで、いま建てた家の窓ガラスのアルゴンガスは何年もつと思います? ガラスメーカーを問い詰めたら、まあ30年は大丈夫ですと云います。で、その先は? と聞いたら、まあどうでしょう、わかりません、という感じなのですよね。たぶん、30年後には半分ぐらいに減るんじゃないですかね。PVCサッシも30年後には紫外線劣化でどうなっているかわかりません。大体が30年40年あたりが寿命だと思うし、サッシ枠が保っても、気密材なんかは硬化して気密性能は確保できない。外壁材もだいたい30年40年。断熱材は100年もちますけれどね。

建てた人がなんとか30年40年暮らしてそこでお亡くなりになって、子どもに遺産相続する。子どもはそれを売りに出し、買った人が大規模改修するわけですよね。そうやって100年使っていくのでしょうけれど、40年くらいのところで大規模改修した際に、外壁をはがす、サッシも交換する。そういうことになって、新しい装いを迎えていくわけですから、22世紀まで性能が続くことは全く必要ないわけで。いまから30年40年先、それだってどうなっているかわかりません、とまあこんな感じを抱いているわけです。

 

《3地域で無暖房住宅はできるか?》

問題は、3地域で無暖房住宅はできるかという課題です。

QPEXにレベル-4のデータが入っています。計算地点は盛岡です。計算結果を見ると、灯油消費量が、暖房で164ℓ。省エネ基準に対して16%です。あまり詳細にはできませんが、この仕様を上げてみます。天井は、ブローイングGW400㎜を高性能GW16kg/㎥500㎜にする。さっきの無暖房住宅の500ですからね。そして壁は、門形ラーメンで柱が105×300mmですから、300㎜の断熱が入ることになりますから、これに付加断熱200mmとして、外壁の断熱が500㎜。昔僕の授業で、学生にハンスさんの無暖房住宅の図面を見せたら、壁厚はどう見ても50㎝あるよということになった。普通の総2階40坪くらいの家を考えたら、外周長さが40mくらいになりますから、40m×50㎝=20㎡。学生マンションがちょうど20㎡くらいですよね。あなた方はこの家の壁の中に住んでいるという話(笑)。50㎝の壁というのは、大体そんなイメージですね

開口部はPVCサッシ。これは木製で、ドイツ製のサッシのようなU値が0.8とか0.7とかそういうサッシに替えると性能は上がりますけれど、普通の値段では手に入りませんので、ここは触らない。あとは熱交換換気をC値=0.5で、もう少し大型のものを使って熱交換効率80%を85%くらいまで上げ、換気回数も少し少なくして0.35回/hとすると、大分減って、94ℓまで減りますね。

あとはなにができるでしょうね。床の断熱を、いまGW105㎜+SF50mmだから、このSFを100mmにします。あとできる話といえば、YKKのAPW430のガラスをもう少し性能の高いガラスを選びます。南面のガラスを日射透過率の高いガラスにして東西北は熱損失の良いガラスにすると、もうちょっと減りますけれど、めんどうくさいから…(笑)。これでいくと7.8%になります。まあQ1.0住宅はレベル-4までしかないのですけれど、レベル-5までいった感じですかね。でもこうやっても0にはならないのですよ、なかなか。

だから無暖房住宅って大変だなあって思う。だから同じ仕様で、盛岡ではなく東京の練馬に立てたことにすると、0になりますね。無暖房住宅です。たぶん練馬はここまでシビアにやらなくても無暖房住宅はできると思いますが、この盛岡で無暖房住宅って大変だなっていうのがわかるでしょう?

建物本体の性能を上げて究極までいこうとしても、そう現実性のあるものはなかなか出てこない。むしろQ1.0住宅のレベル-3、レベル-4、このあたりで打ち止めでも別に構わないのではないかなと、僕は思っています。

 

《設備でエネルギーをどう減らすのか》

設備でどうやってエネルギーを下げるのかという話ですが、このグラフで見たときに、家電と調理、照明、給湯、そして換気の動力が出てきますね。実はこのほかに、温水暖房の時のポンプの動力だとか拾い切れていないものもあります。調理・家電は国の基準値が決まっていて、定数が入っているだけです。この家電のエネルギーは、ちょっと多すぎるのではと思っています。日本人は省エネが大好きですから、最新の冷蔵庫に買い替えれば省エネになりますよということはみんな知っているし、買い替えも進んでいます。エアコンもそうですし、テレビなんかもいまLEDになっています。

調理はIHが普及していますが、このIHが、将来的にはエネルギー供給として問題になりそうな気がします。なぜなら太陽光発電が終わった夕方、夕食の準備でIHがガバーッと電気を使いますから、これで電力供給がきわどくなるというような問題がこれから出てくると思います。IHの効率を見ると、意外に悪いのですね。ガスの効率よりもっと悪いですよ。しかも貴重な電力を使っています。僕はIHの普及には疑問を抱いています。うちの女房はガス派なのですが、IHで3年間調理して、いまノイローゼになっていますね。調理ができなくて。

あとはやはり、給湯が大きいかな。照明はLEDになって小さくなりましたから、残りは給湯なんです。換気の動力も直流モーターを使った換気システム、第3種でも使えばすぐ小さくなりますから、設備によるエネルギーの削減というと、もう給湯だけしかありません。

給湯の消費エネルギーをどうやって少なくするか。実はこれは簡単で、太陽熱給湯機を載っければ半分になるとずっと思っていたのですが、Webプログラムでは20%しか減らないのですよね。これはいくらなんでもおかしい。そんなことを前先生にブースカ言ったら、担当者に言っておきますとか、おっしゃっていましたがね。

その次におかしいのが、ヘッダー配管だとか水優先水栓。これは真ん中で水しか出ないというもの。僕もこの間、初めてどこかのホテルで見ました。ホテルは給湯温度が高いところがあって、適温を探す範囲がとても狭いものですからやっかいで、とても使いにくい。この水栓のことを、女房に話をしたら、そんなもの、慣れたら省エネにはなるはずは無いと。お湯を出したいか出したくないかだけで、水栓の位置がどこにあるかなんて関係ないでしょ、バカじゃないなんて言われましたけど、僕もまあそう思います(笑)。

シャワーの手元止水だって、シングルレバーだったら手元でやらなくたって大して変わらないですよね。これを全部やると、なんと24%も減る。太陽熱給湯入れても20%しか減らないのに、水栓関係を変えただけで24%も減るなんてこんなバカな話がありますか? いくら何でもこんなので突っ走られたら適わんなあというのが偽らざる思いです。

ここで非常に大事なのは、高断熱浴槽を導入して、ボイラーの追い炊き機能をなくして、給湯専用ボイラーにするということ。これはめちゃくちゃ省エネになりますよ。たぶんユーザーの抵抗はものすごく大きいでしょうが、追い炊きはレジオネラ菌でわざわざお湯を汚染させているようなものですから、そんな不潔なお風呂に誰が入りたがるかという気持ちです。高断熱浴槽できちんと断熱すればお湯は冷めませんから、少しお湯を足すだけで元の温度になります。追い炊きってめちゃくちゃ効率悪いのです。風呂に入った後、翌日冷たくなったお湯を追い炊き機能で沸かすという人がいますからね。これは2倍エネルギーがかかります。だからそういうおもちゃみたいな機能はもうユーザーに与えないということを、工務店を説得すればそうなるかもしれませんが、これは相当難しいでしょうね。

 

《太陽熱給湯設備のいろいろ》

われわれは太陽熱給湯をもっと普及させることに力を注がなければならない。太陽熱給湯はローテクなものですから、経産省は全くやる気がない。そんなところにお金をつぎ込むのだったら太陽光発電を使わせたいわけです。しかし、まあ何とかしたいですね。

常識的に2枚で4㎡のパネルと200ℓの貯湯タンクを設置して、給湯エネルギーが半分になるというのが今までの常識であり、NEDOのデータもそうなっていました。長府製作所のシステムがとても安価で使えそうです。

ドイツでは500ℓのべらぼうに大きいタンクもあります。そして中もものすごく工夫しているのですが、これで暖房を賄おうとしても、冬場は太陽熱だけでやるとするならパネルを相当増やさないと暖房に回すことはできません。住宅の性能が上がれば多少変わってくるのでしょうが、パネルを増やして5~6枚にすると、夏はお風呂屋さんを開業できるほどお湯ができるのですね。これがどうしようもなくて…。夏になったら自動的にすだれが下りてくるようなコレクターがあればいいなと思います。自動制御の。そういうものがあれば1年じゅうフル稼働ができます。

要は、このような設備機器が日本でも普及しないと、設備系の省エネルギーが進まないということです。エコキュートで何とか効率を上げようとしていますが、それほどでもありません。ガスのボイラーとほとんど変わらないんですよね。冬場は温暖地でもエコキュートの効率は下がりますから、1年間の平均値ではなかなかCOPが4を超えないということですね。いずれにせよ、設備系に太陽熱を使うというのが近々の課題です。

 

《20年前のQ1.0住宅》

これは室蘭工大の研究室で設計した、20年前のQ1.0住宅。秋田の家で99年4月に竣工しました。Q1.0住宅という名前ができる前ですけれど、だいたいQ1.0住宅レベル-1から2の性能で、結構大きい家です。お施主さんは夫婦二人ともお医者さんで、スウェーデンに2年ほど留学していました。そのころ僕も半年ほどスウェーデンにいたもんで、その時知り合ったんですね。帰国したらスウェーデン風の家を建てたいという相談があったんですが、スウェーデンのデザインだと面白くないから、じゃあ和風にしようということでちょっと和風の家ができました。

ご夫婦には当時小学低学年の息子がいまして、この家で育ったんですね。何年か前、この息子が実家の近く、歩いて5分くらいのところに土地を買って家を建てました。今度はレベル-3くらいの家ですね。太陽光発電と太陽熱給湯も置いています。これで2~3年たっています。今度はこの親が息子に負けて悔しいと思ったのか、いま設備改修と断熱改修をやろうとしています。こんな感じで住宅ってつながっていくんだなと感じる次第です。

この家はちょっとお金をかけすぎですが、そんなにお金をかけなくても省エネ基準住宅+坪4~5万アップくらいで性能的にはこういうものができると思っています。今後ずっと手を入れながら住み継いで、人が変わってまた住み継いで22世紀を迎えるのにこれで不十分かというと、僕はもう十分だと思います。足りないところは途中で手を入れることができます。Q1.0住宅のレベル-1でも遜色ない。40年後の大規模改修の時に設備や断熱に手を入れればよいのです。

問題はこういうお金持ちの家もあれば、35歳サラリーマン家庭、共働き、年収500~600万の人たちも家を建てるわけです。そういう人たちが押しなべてQ1.0住宅のレベル-1からレベル-3くらいの家を建てておけば、100年使われていくことが可能じゃないかなと思います。もちろん予算があればパッシブハウスクラスの家を、もっと性能を上げても一向に構わないんですけれど、でも、その暖房エネルギーの差は、温暖地ではほんの僅かでしかないし、東北でも北海道でも灯油100ℓくらいの差でしかない。

となれば、100年後心配しない住宅とはどんな住宅か、僕が何を言い出すか皆さん聞き耳を立てていると思うんですが、実はつまらない答えです。予算によってQ1.0住宅のレベル-1~3ぐらいの家づくりを、できればレベル-3に寄せた家づくりをして行けば良い。私達はできるだけコストダウンの努力をする。そしてもっとデザインとか空間構成とか、そういうところに力とお金もかけて家をつくっていく必要があるんじゃないかと思いますね。

 

《2018エコハウス大賞の家》

これから森みわさんの話でも出てくるかもしれませんが、2018年エコハウス大賞の家。四国の松山に建てた「大間の家」という名前がついていますが、実はこのデザイン、森みわさんにも言ったんですが、僕はあまり好きじゃないんです。北海道にはこんな具合に隈取りしたような家というのは昔からよくありまして、それが吹雪の中でどっしりと建っているとすごく北海道らしくていい雰囲気なんですが、ここは松山の田園風景、温暖地ですから、もう少し軽やかに見せてほしかったなと思っています。まあこれは好き好きですからいいんですけれど。

この住宅は前先生が評するに、ヨーロッパ流のエコ設備満載の家になっていまして、審査の講評で、そこがこの住宅の売りだと言っています。僕も、こういう住宅は日本で初めてじゃないかという気がしますね。太陽熱給湯、太陽光発電などいろんなものが入っていますが、お金が足りなくて、トイレも使いたいものが使えなかったと森みわさんが言っていましたけど…。

この辺の設備システムがローコストになり、太陽熱給湯を使いながら設備のエネルギーを減らす仕組みに日本のメーカーはまだ全く取り組んでいませんから、それがこれからの課題かなと思っています。

実はわれわれはいま、2㎡くらいの太陽光発電と、真空管式の2㎡くらいの太陽熱給湯と、それに見合った蓄電池一式100万円くらいの設備をすべての家が付けたら、災害時に停電が長引いても、テレビと冷蔵庫とスマホ、PCは何とかなるというような仕組みを考えていまして、どこかのメーカーが作ってくれないかなあと密かに思っています。電気があれば灯油のボイラーを燃やすことも多少ならできます。そういうシステムが100%の家についていけば、災害の時の安心として、平常時はそれを有効利用できればそれでいいんじゃないかと思います。太陽光発電でぼろもうけしようなんて甘い話は将来もうありませんから、そういうものを考えていこうとしています。

以上で僕の話は終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

「温熱性能の今世紀最終基準」/森みわ氏

「100年後にも通用するエコハウス」を考える

2018/11/09 ホテルメトロポリタン盛岡

一社)パッシブハウス・ジャパン代表理事 森 みわ氏

 

「温熱性能の今世紀最終基準」

《イントロ》

 本日はこのように壮大なテーマの講演会にお呼びいただいて光栄といいますか恐縮で、私も鎌田先生と同様に、講演タイトル何だったかなと思って見たら、「温熱性能の今世紀最終基準」。私が決めたタイトルではなかったのですが、これでいくことにいたします(笑)。

 私はパッシブハウス・ジャパンの活動が目立つかもしれませんが、本業は建築事務所をやっておりまして、建築デザインの教育も受けてきています。鎌田先生とはキャリアももちろん違いますし、社会貢献度としては全く足元にも及ばないと思っております。

 ただ、今回こうしてお呼びいただいたのは、私が10年間ヨーロッパで見てきたこと、感づいたことを皆さんに伝えるミッションがあるのかなと思っています。

 世界の動向が、日本の社会にはなかなか正確に伝わってこないなと感じています。メディアのフィルターがかかった状態で海外のニュースを見て、それで知った気分になっていることが多いのではないでしょうか。すべてが嘘というわけではないのですけれど、フィルターがかかった、あるいは歪んだ状態で海外の情報が入ってくる中で、私がヨーロッパで見ることができたものを皆さんにお伝えしていく、あるいは一般ユーザーに情報を発信していくということが私の役割であるというふうに思っています。

 

《立ちはだかる「壁」の共有》

 先日東京で下打ち合わせをした際、東北住建さんから、先を見据えた、100年後住宅はどうなっているのだろうかという話をしてほしいという希望を伝えられました。

 今回この会場にはパッシブハウス・ジャパンの方もいるし、新住協の方もたくさんお見えです。両刀の方も結構いらっしゃるのではと思います。両方に入っているという方、ちょっと手を挙げていただいて…。あ、何人かいらっしゃいますね。ありがとうございます。たぶん両方に入っているのがいちばんいいのではないかと私は思っていますけれど…。

 パッシブハウスだのQ1.0住宅だのといった議論や、ロジックとしてPHPPとかQPEXみたいな話ですとか、あるいは団体としてどうなのとか、そうした話をよく聞きますけれど、大きな流れの中では、両者は非常に近い概念で活動しているなと思っています。

 スライドには「憧れと現実」と書きましたけれど、あとで説明しますが、将来的にはこういう方向に行きたいと思っている人と、今現在はこの辺が妥当じゃないのと思っている人と、話がかみ合わないことがあるのですよね。当たり前ですけれど。その辺が食い違ったまま、こっちがこうだ、あっちがあだみたいな話をよくするのですが、たぶんパッシブハウス・ジャパンの皆さんの中にも葛藤はあるし、新住協の会員の皆さんの中にもたぶん葛藤はある。あわよくばもっといい方向にと思っているのですが、実際には全棟が達成できない、そういう事情を皆さんお持ちだと思うので、そういう中で2つの基準というのが、非常に近しい中で存在するのかなと思います。

 今日は具体的に2つのロジックがどうなのだとか、どっちがどうなんだという話をするつもりはなくて、こういったことはもちろん今後の支部の勉強会などでやっていけたら本望だなと思っています。しかし、敵は別のところにいるぞということで、私たちの前に立ちはだかっている「壁」の存在を共有していきたいなと思っています。

 

《年間暖房需要に補正》

 パッシブハウス基準の大きな特徴は、まず「年間暖房需要」。私が2009年に「年間暖房負荷」というふうに書いてしまったことがきっかけで、そのまま暖房負荷というふうに呼ばれていますが、今回PHPPを日本語訳するにあたってどうしても限界を迎えまして、このタイミングで用語を「年間暖房需要」と訂正させていただくことにしました。

 年間暖房需要は、建物が暖房期を通して快適な室温、20度設定なのですが、これを保つためにどれだけのエネルギーを暖房設備から受け取らなければいけないかという、そういう単位です。

 これが床㎡あたり15kwhを切っていく、そうするとパッシブハウスということができます。実際設計事務所としてキーアーキテクツの統計を例にしますと、パッシブハウスをクリアしている物件というのは、たぶん3件に1件くらいというのが最近の成績です。残りの3分の2はパッシブハウスまではいかない。ただし暖房需要で30kwhは絶対切っているというこの辺が私たちの中での最低ラインで、設計者として課している部分です。この2つの非常に狭い中でせめぎ合いがあるというのが現実です。

 

《エコとエゴのせめぎ合い》

 なぜ全てがパッシブハウスにならないのかというと、お施主さんが購入した土地のポテンシャルの問題であったり、予算に対する「エゴの割合」というふうに呼んでいるんですけれど、エコとエゴのせめぎ合いの中で、エゴの要素が大きくなりすぎてどうしても性能が追いついてこないことがあります。そんなときは、パッシブハウスをやめましょうと、私の方から先に言うことも結構あります。お施主さんはせっかくやるんだから、とあきらめきれないことも多いんですが、私のほうが逆にブレーキをかけるという、そういう変な設計事務所になってきました。

 予算がない方からも、相談がどんどん来ます。予算はないけれども、とにかくあなたの考え方に共感した、これからの家づくりはこうあるべきだ、という方が来られるんですね。ですから、お金がある人だけが望むということではなく、予算が厳しい人でも集まってきてくださる。そういったことが起きてきています。

 どちらの評価基準が腑に落ちるかというのは皆さんそれぞれが考えていくことだと思いますけれど、先ほどお話ししたように、全棟で達成したい現実路線の話と、あわよくばという自分たちの憧れみたいなものをきちんと区別して話をしていくことが重要なのかなというふうに思っています。

 

《建材がない》

 今日は100年後の基準というテーマですが、鎌田先生のお話を聞かせていただいて、私の感覚とすごく近いなと感じるところもありました。結論みたいなことから言いますと、おそらく無暖房というレベルの需要は100年後にもなくて、世界中がいまパッシブハウスというものを、躯体性能においてはたぶん最終基準として目指しているのではないでしょうか。

 しかし、国によってはそのための建材がない。窓がない、換気装置がない、そういった現状がある。自国の法規と完全に矛盾してしまっているという問題もあります。先日アメリカのパッシブハウス推進団体の方と意見交換をしましたが、アメリカでは法規が求める換気回数が多くて換気のロスが減らないとか、日本と似たような悩みを抱えていました。

 そういった事情があって、まだ100発100中にならないという人はすごく多いのですけれど、建材さえあれば事情はあっという間に変わる。大手メーカーが、新しい、グレードの高い窓を売り出したら、状況は一気に変わります。

 今までパッシブハウスレベルの住宅がやれなかった人の最大の理由は、コストパフォーマンスだと思うのですよね。これではサラリーマンには買えないのじゃないかということで、パッシブハウスには否定的だった人が、数年後には「あ、いけるんじゃない?!」ということになります。パッシブハウスくらいの躯体性能が100年後も最終目標となるかもしれませんが、問題は時間ですよね。普及するまでどれくらいの期間を要するか。いかに早く普及率を高めるかといところがチャレンジなのかなと思います。

 

 プラスアルファとしては、設備ですね。再生可能エネルギーとのマッチングを考えながら設備設計をしていくというのが、これからパッシブハウスにプラスアルファとして求められていくのではないかなと思っています。

 

 

《コンプレックス、足るを知る、持論を持つ》

 私が現在の日本において感じる、根本的な問題がいくつかあります。それは、コンプレックスからの脱却、「足るを知る」ための努力、そして持論をもってそれを表明する責任を負うこと。この辺のワークアウトを、まずはやっていかなければならないと思っています。

 「コンプレックス」というのは、自信のなさの表れですね。そうなると右へ倣えの判断基準に偏ったり、いつまでたっても満たされないまま無駄な消費行動を煽られる。その結果、省エネルギーのほうにお金が回らないという弊害が出ているかもしれません。

 持論を確立しにくいということの弊害は、たとえば国の政策がおかしいのではないかと思っても、持論を表明することを躊躇してしまう。それによって、同じ気持ちでいる人たち同士が共に声を上げることができない。それが個々が孤立していく原因になってしまっている、非常に根が深い問題かなと思っています。

 「足るを知る」というのは、たとえば、省エネ住宅ができました、光熱費が半分になりました。じゃあお財布にやさしいので家のサイズを2倍にしましょうとか、年中裸で過ごしましょうとか、このように次々と出てくる欲みたいなもの。そういったところで、せっかくの高効率への歩みがリバウンドしてしまうという弊害もあると思います。

 コンプレックスからの脱却においていちばん大事な第一ステップとしては、自分たちが恵まれていることにまず気が付かなければならないのではないかと思います。

 

《世界がもし100人の村だったら》

 「世界がもし100人の村だったら」という本があります。世界を100人の村になぞらえて、そのうちの何人が学校に行けて…などという例を挙げています。それに当てはめると、この会場に仮に200人いらっしゃるとすると、この中の2人が大学の教育を受ける、この中の4人がパソコンを持っている、それが世界の平均なわけですよね。

 ところが、おそらくここにいらっしゃる90%以上の方がノートパソコンをもってお仕事をしたり、高等教育も受けていらっしゃるだろうと思います。「100人の村」に照らし合わせてみれば、非常に恵まれている自分たち、そういう暮らしを送っていると思うのですが、自分が幸せかどうかという判断基準は、常に周りの人との相対的な比較で決まります。いまの日本では、たとえ東京大学に行っても自殺率が高かったりします。自分になかなか自信が持てない、自分は恵まれている、幸せだという実感が持てないという社会であるような気がします。

 2008年にアフリカのモーリタニアという砂漠しかないようなところに、日本のODAが小学校を作りました。そこの現場監督をやっている友達に会いに行ったのですけれど、何もないところなのにみんな目が輝いていて、とにかく学校に通えるというだけでものすごくうれしそう。その笑顔がとても印象的でした。日本ではなかなか見ることのできない子どもたちの笑顔でしたね。

 

《コンプレックスを煽られ、無駄な消費に》

 幸せを周囲との比較で決めているという話を、もう少し続けます。私たちは幸せだよね、満足だよねと思おうとしても、なかなかそうさせてくれない。私は東京の近郊に住んでいますが、電車の中吊り広告などを見ても「いや、君はまだそれでは足りない」といわんばかりの広告だらけで、コンプレックスを植え付けられながら毎日暮らしているようなものです。

 コンプレックスを過剰に煽ることによって消費行動を煽り、経済を回していく。そういうやり方はどこの国にもありますが、日本はそれが非常に強いなと思います。

 ですから、本来だったらいつか建てる自分の新居のためにコツコツ貯金をできたはずの人が、こういった広告を見続けるうちに、私これじゃダメなのかしらというコンプレックスにとらわれる。すると、莫大なお金がエステサロンだとか、ライザップでもいいんですけれど、まあアデランスでもいいんですけれど、そんなところにどんどん注ぎ込まれる。

 その結果、本来ならきちんとした収入のある人で、家づくりに興味をもって、環境にやさしい家をつくろうと思っても、いざという時もうお金が足りない。お金がないからいい家が建てられないのではなくて、本来あったものが無駄なところに消費されすぎているというのも、一つの原因としてはあるのかなと感じています。

 

《ファクター5》

 私が感銘を受けた「ファクター5」という本がありまして、日本語版も出ています。この中で、エルンスト・ウルリッヒ・フォン・ヴァイツゼッカーという博士が、いまのままでは地球が5個ないと世界中の人がまっとうな水準の暮らしを維持できないという論を展開し、地球は1つしかないので、エネルギー効率を5倍にしましょうという提案をしているんですね。

 5倍にする具体的な例として、この部門ではこういったアプローチ、この部門ではこういったアプローチというのが書いてあります。建築部門に関しては、パッシブハウスというすぐ手が届く技術があるよね、ということを書いているんですけれど、私がいちばん印象的だったのは、本の最後に「足るを知る」という、インドのマハトマ・ガンジーが残した言葉を博士が引用していることでした。

 私たちはエネルギー効率を上げる技術を持っている。しかし、リバウンドというか、私たちの欲が止まらないとそれは達成できないということが書かれていたことが非常に印象的でした。

 

《国連環境計画(UNEP)》

 2017年からご縁がありまして、国連環境計画(UNEP)の日本法人理事の末席に加えていただいています。国連が2015年に定めた、SDGS「SUSTAINABLE  DEVELOPMENT GOALS 世界を変えるための17の目標」というものがあります。

 一応理事なので、最近の講演会では必ずこれをお話しするようにしています。17個の項目を見ていくと、「SUSTAINABLE(サステナブル)=持続可能」と考えたとき、どうしても資源とかエネルギーをイメージしがちだと思いますが、ちょっと違うんですね。

 この図を見ていただくと、1番が貧困をなくす、2番が飢餓ゼロ、3番がすべての人に健康と福祉を、とあります。人権とか平等性などについて言及した、平等な社会といったものが語られています。12番くらいから、作る責任・使う責任というリサイクルの話、13番が気候変動の話、14番は海を守ろう、15番は緑を守ろう、とこんなふうに続くわけですね。

 私は環境問題も、人権問題も、紛争問題も、限りなく同一な問題だと思っています。ですから、100年後も声を荒げて省エネ住宅がどうのこうのとやっていたとしたら、たぶん世界はエネルギー戦争に巻き込まれていて、まっとうな状況にはなっていないんじゃないでしょうか。そうならないためにも、いま取り組んでいるエネルギー的自活、化石燃料からの脱却といった問題は、平和運動だと解釈していただきたいなと切に思います。

 

《近江商人、三方良し》

 とはいっても商売は商売、利益を上げてなんぼだという感覚の方も多いでしょう。近江商人の「三方良し」という言葉を聞いたことがあるかと思います。売り手と買い手、そして国にもよしという「三方良し」を商売の極意として、自分だけが利益を上げるのではなくて、相手方、地域にもいいというのを実践していました。これをいまの時代に置き換えてみれば、地球にもよしということで、これがこれからのビジネスのあり方の絶対条件になるのかなと思っています。

 いま、SDGSが世界の建前になっています。ですから皆さん、ビジネスシーンでは建前の話をして、本音は今までどおり荒稼ぎしたいというのはあるかもしれませんが、それはあまり堂々と言わないでほしいです(笑)。もう少し謙虚になってほしいんですね。

 東北の方はどうかわらないんですが、関西方面に行くとかなりカチンとくることがあるんですね。「そうは言ってもカネや」みたいなことを言われると、ちょっと黙れというふうになりますね(笑)。でも、世界のビジネスマナーとしてはこういう風潮になっていくと思います。

 

《エゴとエコ》

 お施主さんが予算に対して要望が多すぎるため、エコに予算が回らなくて、パッシブハウスにならないケースが3分の2もあるというふうに言いましたけれど、エゴとエコ、これは常にせめぎ合う関係だと思うんですよね。

 イラストで表してみましたが、住宅設計においてエコとエゴはどのように分類されるかというと、これは私の持論ですが、耐震性とか機能性とか耐久性とか家計にやさしいとか、これは全部エゴなんですよ。もちろん耐久性が高いものはライフサイクルが長くなって、結果的には省エネになります。家計にやさしいのが省エネルギーだという可能性もあります。でも、この発想は、自分と自分がよく知っている人たちの命を守るという話だと思うんですね。

 一方では、省エネルギーの家を建てたいとか、地産地消の材料を使いたいとか、石油に由来するものは使わないとか、ごみを減らしたいとか、これは主旨が違うんですよ。自分が一生出会うことがない、困っている人たちの命の話をしているという意味で、やっぱりこれは別物だと思うんですよね。申し訳ないんですけれど、耐震性能と省エネルギーを、同じレベルで私は考えたくない。理由はこれですね。どっちが重要という話じゃないです。なんというか、動機が違うんですよ。

 

《省エネ運動は平和運動》

 「省エネ運動は平和運動」とタイトルを付けたスライドについて説明します。われわれは省CO2とか省エネとか低炭素とかに取り組んでいますけれど、大きな視点で見ると、紛争をなくしていこうという平和運動の中で必然的に見えてくる、持続可能な社会づくりという目標があります。

 この中に省エネルギーが含まれ、さらにいちばん真中に省CO2があります。この入れ子状態の中で、省CO2ではあるけれど持続可能ではないというものもありますよね。CO2出しませんと言いながら、持続可能な社会とは根本的に矛盾するシステムだったりするわけですよね。ですから私は、サステナブルでないなら、いくら省CO2でも絶対に採用することはできないというふうに思っています。

 

《エネルギー依存からの脱却》

 原発に関しては、3.11の前から私は批判的な立場をとってきました。私の1冊目の本に坂本雄三先生が帯推薦を書いてくれたのですが、彼のコメントとして、「森さんよく勉強したね。ただ一点だけ、原発と原子力爆弾は違うから」ということで、そこだけ直させられたということがありました。

 私は高校生くらいの時に原発の問題に気が付いて、それからずっと批判的な考えを持ってきました。実は、3.11の前に東北電力さんの講演会に呼ばれていて、米沢市だったと思うんですけれど、私の1冊目の本も読まれていたと思うので、「私は原発に反対なんです」と事前にお話ししました。すると、「それはわかっています。それも含めて受け止めますので」と当時の担当者がおっしゃったんですね。それ以来、全国の電力会社の中でも東北電力には一目置いています。

 その後に原発事故が起きて、私も非常にショックを受けました。京都議定書とか、世界の流れに沿って省CO2に取り組んでいく以前の問題として、非常に大きな問題を抱えているんだなと痛感させられました。

 3.11以降、非常に多くのクライアントが「もう電気を買いたくないんですけれど」と相談にみえるんですね。「森さんはパッシブハウスなんでしょ。もう電気いらないんじゃないの」「なんとかならないの」「電力会社の契約切りたいんだけど」といった相談がばんばんくるわけですよ。

 ですが私は、「それは、省エネとは関係ありません」と言ったんです。「省エネの達成のためにオフグリッドというか、そこまでやる必要はないんです」と最初はお答えしていたんですけれど、これははっきり言って非買運動なんです。ボイコットに近い話。

 そんなことより、私たちは電気がなくては生きていけないという暗示にかかっている限りいろんなところで不利になっていくということに気がついて、自分たちも別の方法を考えていかなければならないなと思いました。一方で、原発事故が起きてみて初めて、「危なかったのね、知らなかったわ」という人がいたり、うちの母なんかも「原発って安全だったんじゃないの」と…。そんな平和ボケの人たちもたくさんいるんですね。

 情報というのはテレビの前にぼーっと座っていても得られないということを、常々学生には言っているんですけれど、本当の情報は自分で取りにいかなければならない。私は原発の問題には高校生の時に気がつきましたが、情報は別に隠されていたわけではない。アクセスできるところにある。それを取りに行くのかどうかというのが、私たち一人ひとりに問われているのかなと思いました。

 

《オフグリッド》

 お施主さんたちが私のところにたくさん来て、「オフグリッドにしたい」と言うものですから、私もいろいろ考え始めました。

 日本のエネルギー輸入依存率は94%で、海外からの輸入エネルギーに依存してきました。その中で原子力発電という夢のような技術が出てきたという経緯があるんですけれど、やはりこれには持続可能性がないということがはっきりしたわけです。そこでパッシブハウスならではのアプローチができるんじゃないかということを考えて、私がいちばん嫌いな蓄電池というものも取り入れて、何とか最小限の設備投資でいけないかというのを真剣に考え始めました。

 私がオフグリッドを試みているらしいといううわさがちらほら広まっていくと、「何やっているの? 無人島じゃあるまいし、インフラはすぐそこまで来ているのに、なぜ孤立姿勢みたいなことを?」などと言われたこともありました。

 「スパゲッティ症候群」という言葉がありますよね。病気で入院中、体から管がいっぱい出ていて、一人では生きていけないような状況を言うんですが、現代はいわば「住宅版スパゲッティ症候群」だと、私は思っています。ガス、水道、電気などのインフラが断ち切られたら、もうどうしようもないわけですよ。

 このように限りなくエネルギーに依存している状況の中で、エネルギー的自立、一人でもある程度やっていける強さみたいなものを獲得することが必要ではないかと思います。

 依存症から脱却して自立することの意味は何かというと、一人だけ生き残ろうとかそういう発想ではありません。依存していないということは、何かの時に隣の人に手を貸すことができたり、助け合いの中で助ける側に転じることができるということ。地域全体でエネルギー戦略を組み立てていくとき、小さな町内会のような単位で強力なエネルギーネットワークを作れば、広域のエネルギー的自立に貢献できるんじゃないかと考えました。

 

《季節で見る再生可能エネルギー》

 このグラフの緑色のサインカーブは太陽エネルギー。冬と夏の、たとえば屋根の上で得られる再生可能エネルギーを比較しています。従来の住宅だとやはり冬の暖房エネルギーが、敷地で得られる再生可能エネルギーを上まってしまう。そこはやはり発電所のお荷物になってしまうんだけれども、パッシブハウスに限りなく近づいていくと、冬の需要と供給の逆転が解消されて、冬でもかなり自立できる。季節で見るとなんとかなるんじゃないかと思います。

 冬でも発電所のお荷物にならないという点が、地域のエネルギー政策を考えていくときとても重要になるので、これがやはり高性能住宅の大きな強みになってくるわけです。ここの逆転を回避した状態で、どういった設備設計をやっていけばいいのだろうかということでオフグリッドの仕様を考えたんですね。

 再生可能エネルギーというのは、お天気任せ風任せの、気まぐれなエネルギー源だと思います。それに対して私たちの方も、電気を使ったり使わなかったり、暖房したり冷房したりというサインカーブがあって、その2つのバラバラの波をどうやってマッチングさせていくかというのがこれからの課題になっていくのではないかと思います。

 ヨーロッパでは、再生可能エネルギーで足りるか足りないかという議論はほとんど終わっていて、足りる前提で話が進んでいるんですね。問題は、どうやってタイムラグを解消するか。どうやって貯蔵するか、どうやって需要側をマネージメントするかという議論になっています。

 

《秩父のオフグリッドプロジェクト》

 秩父の高橋建築が、日本で3棟目のパッシブハウスをつくりました。そこでオフグリッド化にチャレンジする想定で、まず私は2013年に絵をかいて、「こういうHEMSがほしいんですけれど」と、いろんなところに相談に行きました。

 これはその時の私の絵なんですけれど、真ん中に2つのタンクがあって、左側が蓄電池のタンクで、右側が温水器の貯湯タンク。要するに電力系統と温水系統の2つのストレージがあって、両方ともバッテリーですよね。それを天気予報とか需要などと組み合わせながらやりくりしていく。これを住まい手が常に見ながら生活することで、あ、いま洗濯機を回そうとか、人間HEMSみたいな、人間の学習能力を引き出そうとかそんなことを考えて、こんなのどこかで作ってくれないかなと思いまして…。

 ヨーロッパではこういう製品はすでにあったんですけれど、日本ではちょっと使えなかったんで、こういったものがあれば、かなりのレベルまでできるんじゃないかと思っていました。

 もちろん、私がやろうとしたのはネットゼロではないです。年間平均でゼロエネでしたよという話ではないので、季節ごとに再生可能エネルギーとマッチングさせていかなければならない。時間帯ごとにもマッチングさせて蓄電池の負荷をコントロールしていかなければならない。これでオール電化が破綻するということもわかりますし、バイオマスエネルギーの適量の使用みたいなものがあったら助かるなということも、このオフグリッドプロジェクトを通じて再確認しました。

 

《SUNNY ISLAND》

 ドイツに視察に行かれると、たいていの太陽光パネルの先っちょには、このSMA社のインバーターやらバッテリーコントローラーがついているので、見たことあるという方も多いんじゃないかと思います。SUNNY ISLANDというのは、同社の開発したオフグリッド対応のバッテリーコントローラーなんですけれど、日本では売っていません。SMAジャパンも日本では需要は無いし扱えないというものですから、直接本社に働きかけたところ、日本の脱原発ムーブメントに何とか協力したいと言ってくださって、特別にパッシブハウス・ジャパンにSUNNY ISLAND6.0Hを提供してくださいました。

 日本でもちょっと探せば、インバーターなんてありますよね。トレーラーハウスなんかに載っているようなやつ。でもあれは耐久性が低いんですよね。住宅で使用する場合は常に負荷がかかっている状態なので、何年かすると壊れてしまう。しかも最大出力は2000w前後のものが多く、ドライヤー使いながら電子レンジつけたらアウト、そういう容量ではちょっと住宅向けとしてしんどいなと。

 この6.0Hというのは、コンスタントに4800w、最大瞬間で6000w出せるんです。しかも住宅用の耐久性を備えていたので、やはりこれだと思って取り付けました。これにアメリカのディープサイクルの鉛電池をつけて組みました。代理店もないものですから、英語のマニュアルと格闘して、私がすべてセッティングしました。

 このSUNNY ISLANDが、太陽光、屋根の上にパナソニックが4キロ載っているんですけれど、電力を鉛蓄電池に送るんですけれど、宅内に負荷があった場合はそっちに先に回すということで、バッテリーを通過する量が少ないということですね。

 あと深放電させちゃうと鉛の蓄電池の寿命が落ちるので、それも全部パラメーターでセッティングするんですけれど、最初50%以下にはしたくなくて、50%以下になったら瞬時に商用電源に切り替わるような回路にしてあったんですけれど、50%なんてあっという間にいくので、最終的には30%にしたんですけれど、この家には6人家族がオール電化で住んでいるというちょっと無茶苦茶な状態で、難易度が高すぎたかもしれません。

 高橋建築の高橋さんとも話したんですが、頼むからエコキュートだけはやめてくれと。何とかしてバイオマスのボイラーとか太陽熱温水器と入れ替えてほしいと私からお願いしたのですが、そしたらそれはオフグリッドじゃないと言うんですね。森林資源だって本当は使いたくない、屋根の上でとれるものだけでやりたいということで…。

 

《0.3秒》

 先ほど鎌田先生のおっしゃっていたように、夕方5時くらいに奥さんがIHで調理を始めると、やっぱりオフグリッド・システムが落ちるんですよ。0.3秒後には商用電力が入ってくるんですけれど、料理は生煮えのままで放置され、あれ? ということになりますよね。子どもたちのテレビゲームも0.3秒切れたらおしまいなんですよね。照明だけですよ、すぐに復帰するのは。ということで、なかなか評判が悪くて(笑)。最終的にはこのオーナーさんの暮らし方には難しかったですね。   

 ただ、私にはとても勉強になりました。蓄電池は20kWhを積んだんですけれど、これもばかばかしいくらい大きかったんですね、私にとっては。これを小さくしていきたかったし、そのためには片っ端から家電の負荷をつぶしていく、見直していかなければならなくて、洗濯機をいつ回そうかとか、冬に冷蔵庫を外に出せないかとか、いろんなことを考えたりしたんです。

 でも、たとえば3500万円で家を建てた施主さんとしては、IHが途中で切れて晩ご飯が生煮えだったりというのはどうしても受け入れがたい話で、非常に難しい壁にぶつかりました。やはりマネージメントがもっと進化していかなければいけないということと、バイオマスエネルギー、要は火力発電所ですよね、地元の森林資源を使った火力発電がいかに心強いかというのを感じた次第です。

 

《電力会社との健全な関係》

 ドイツの村上敦さんが言っているんですが、みんなが一斉に薪ストーブをたいたら日本の山は一気にはげ山になるという話があります。いまの一般的な住宅の省エネレベルでは、本当にあっという間にはげ山になると思うんですよね。国民一人当りが給湯や暖房にどれだけ使えるのかというのは大事な問題ですし、たとえば太陽熱温水器をつけない、ペレットの給湯ボイラーでというやり方は、ヨーロッパでももう奨励されていないんですよね。無駄に森林資源を燃やしてしまうということなので、その辺の優先順位とか総量を考えながら使っていかなければいけない。

 秩父での経験いろんなことがわかりましたが、やはりバッテリーというものがますます嫌いになりました。こんなものに依存するオフグリッドというのはないなと。

 電力会社とは依存ではなく、決別でもなく、健全な関係を保っていくのがいちばんお得なのではないかと思います。たとえば20A契約で暮らしていくとか。あと各家庭が2キロから5キロくらいの壁掛けの蓄電池を持っておくだとか、そういう感じでコミュニティ全体で融通していくとか、そういう将来が来たらいいなと思うようになりました。

 

《八ヶ岳の件》

 高橋建築の物件をやっているときに、別のお客さんから「僕もこれやりたい」という要望をいただいて、説明用の絵をかきました。回路はこんな具合になっていまして、太陽光発電、このときはソーラーフロンティアで設計しています。高橋建築はパナソニックで、SUNNY BOYというSMA社製のインバーターがつきまして、SUNNY ISLANDに入ってバッテリーに入る。SUNNY ISLANDは交流200Vで出してくるので、それを一部ダウントランスして100V回路に送る。200V回路というのはIHと夏のエアコン、秩父ではエコキュートですね。万が一こちらのシステムが崩壊すると、瞬時にこのAに切り替わるようにしたんですけれど、音もなく切り替わると住民が混乱してしまうので、何らかのお知らせが必要になってきますね。

 こういったシステム+できればバイオマス系のちょっとしたボイラーを使う、そんな感じの方向で提案しましたが、高橋建築の経験を踏まえて、これはやはり時期尚早ということで、お施主さんには断念して頂きました。

 

《Power to Gas》

 電力を買いたくない、クリーンじゃない電力はもう使いたくないという意見があちこちで出始めましたが、もし将来的にヨーロッパのように商用電力がクリーンになった場合は、また全然違った考え方になってくると思います。

 その辺は悩ましいんですが、ここで紹介したいのはPower to Gasという考え方で、ドイツの場合は太陽光の普及率は40%を超えていくと、太陽光の電力が余って価格が暴落するわけですよね。そうなると困るので、水を電気分解するのに余剰電力を使って、その水にCO2をぶつけて、酸素とメタンを作るんですね。このメタンを貯蔵するんですよ。パイプラインとかコンビナートのタンクなどに。今度はそれを車に入れたり、コージェネレーションのプラントに送って、それを冬に発電用のエネルギーとして使う。

 余剰電力をメタンガスにする過程でエネルギーとしては目減りしていて、6割くらいは減るんですよ。6割減ったとしても、冬まで持ち越せる。ドイツは水素社会なんて馬鹿げたこと考えてませんから、メタンで既存のインフラが使えてラッキーという発想ですからね。

 既存のインフラを使って、バイオメタンガスをパイプラインに入れるというのがいちばん現実的じゃないですか。それをやると、季節をまたげるわけです。夏に余った電気を、冬の困っている時期、太陽光発電が芳しくない時期、曇ったり雪が降ったりで再生可能エネルギーがいちばん少ない時間帯に、夏に貯めておいたバイオメタンがくるというわけです。蓄電池みたいなコストのかかるものにはほぼ関心がなくて、このPower to Gasで季節をまたごうとしているんですね。

 もしこうしたことを日本の小さな自治体からやり始めたとすると、オフグリッドにこだわる必要がなくなってくるというか、電気をどんどん買っていってもいいのではないかと思います。ただ、いまの状況で、原子力発電が止まるのかどうなのかわからない状況で、私はオール電化は推進できないのではないかと思います。

 

《大間の家》

 秩父でのオフグリッドのトライアル、本当に体を張ったトライアルの後で、大間の家の設計が始まるんですけれど、秩父で感じたことを踏まえて、新たな設備コンセプトを組み込みました。やはり、熱は熱で作ろうと。まあセオリーですけれど。電気をヒートポンプに入れてそれで熱を取ってということを、必ずしもやらなくてもいいんじゃないかということで、適量のバイオマスで、こなれた設備モデルができないかなと考えました。

 2017年の日本エコハウス大賞の際、審査員の堀部さんには大間の家の外観デザインを、甲殻類系と言われたんですけれど、後日、堀部さんのスタッフが訪れてくれて、とても感激してくださり、素晴らしいコンセプトだとボスに報告してくださったので、後日こっそりほめていただきました。

 躯体性能をどこまでやるかという議論はいろいろありますよね。どこまで断熱するのとか。私の答えは、どこまででもやったらいいと思うんですよね。ただ最終目標というのは、無暖房住宅ではないし、パッシブハウス基準クリアも最終目的でもないなと思っていて、そこまでいけば、そこから先に、再生可能エネルギーとのマッチングの可能性がいろいろあるのではないかと思うくらいですね。

 この家では薪調理ストーブをここに入れまして、これで調理、給湯、暖房を賄います。ストーブの燃焼庫の後ろに熱交換回路があるのでそこでお湯を作って貯める。冬の夕方、暖房需要が出てくるころちょうど晩ご飯の支度の時間なので、薪を使って調理すると、料理ができるころにはちょうどお風呂も沸いている、そういう状態になります。夏は、太陽熱温水器でお湯を沸かすというシステムです。

 これで一応年間の収支ではプラスエネルギーなんですけれど、別にそれは目指していた事ではなくて、宅内のエネルギー消費量をモニタリングしています。どれくらいの蓄電池があれば、この家が送電網から切り離されて自走するかというのを見極めてから、オフグリッドをやるかやらないかというのを決めていこうかと思います。

 一見、重装備で設備てんこ盛りみたいに見えるんですけれども、私がなぜこの工務店さんでやったかというと、この工務店さんはみんなが悩み苦しみながらやっている高断熱を、こなれた金額でやっていってしまう社長は大工さんや業者さんの意見を聞きながら、いろいろ考えながらやっていく親方みたいな人なので、この人の手にかかれば最小の、いちばんシンプルな設備が組みあがるんじゃないかと思いました。絵にかくとこんなことになっちゃうんですけれど、私もあとで実行予算を聞きましたけれど、そんなに馬鹿げた金額にはなっていなかったですね。

 

《1次エネルギー》

 国交省がやっているので、皆さん1次エネルギーの概念は一応ご存じかと思うんですけれど、1次エネルギーというのは、電力に対して化石燃料がどれだけ投入されているかという換算で、これまでは国ごとに換算の為の係数が決まっていました。火力発電所のタービンの効率とか、ノルウェーならフィヨルドの地形を利用した波力発電の分が入ってくるので係数が少なかったり、原発を入れれば一気に小さくなるとか、その国のエネルギーミックスの平均でこの値は決まります。

 しかし数年前、パッシブハウス研究所が、いや違うだろうと、言い出したんですね。同じ電力でも使う時間帯によって、その瞬間に得られるであろう再生可能エネルギーの量は違うわけですから、係数は異なって当然だろうという話が始まったんですね。そうなってくると、暖房を電気でやるときがいちばんきついわけですよ。冬の夜間、日が出ていないということで、再生可能エネルギーほぼゼロ。バイオマスのコージェネレーションがあるかもしれないですけれど、係数はいちばん高くなります。給湯、家電、これは年中使うものですから、係数は1.3。それに対して冷房というのは夏の昼間しか使わないじゃないですか。これは太陽光発電が発電している真っ最中なんですよ。

 ということは、夏の冷房の場合は先ほどお話ししたPower to Gasのメタンの貯蔵みたいなロスも一切かかってこないので、ダイレクトに使える。蓄電池も介さない。また、自分の家の屋根で発電しているかどうかなんていうのも関係なくて、どこの屋根でもいいんですよ。どこかの太陽光プラントで発電している電気を使う場合も、季節と時間帯によって係数は変わってきます。

 この係数を各気象データから割り出そうという作業をパッシブハウス研究所はやっていて、同じ東北でも能代と仙台では係数が変わるだろうという考え方なんですよね。気象データと日照時間、日照量、それから風速データがあれば、その土地の再生可能エネルギーのポテンシャルが読めます。でも、今実際に普及している再生可能エネルギー量を元にした係数ではないですよ。でもこれが、今日のテーマでもある50年後とか100年後を見据えて家を建てることを考えたとき、もしかするとこの係数はいちばんあてにするべきものではないかと、私は思ったんですね。

 50年後、もしかして世界がほぼ再生可能エネルギーで回っている時代が来た時に、この係数を睨みながら住宅の設備仕様を決めていくんじゃないかなと思います。これは非常に新しい概念で、日本ではまだ1次エネルギーの概念すら根付いていなくて、本当に周回遅れも甚だしいんですけれど…。

 

《四谷3丁目のパッシブ寺》

 ええと、今日のテーマ「今世紀最終基準」ですね。先日、ファイスト博士が東京に来られたんですが、その際、四谷3丁目にある「パッシブ寺」を訪問されました。東長寺という禅寺で、檀信徒会館をパッシブハウス認定を狙って設計したのですが、実際には年間暖房需要30Kwh/㎡を切ったところなので、パッシブハウス認定は取れなくて、ローエナジービルディングという、パッシブハウスファミリーみたいな認定を取りました。そこで、滝沢住職という若い住職が博士に質問をしたんですね。

 「僕は50年後か30年後に次のプロジェクトを仕掛けたいと思うんですけれど、その時博士はいらっしゃらないですよね。僕たちどうしたらいいんですか? そのときパッシブハウスはどうなっていると思いますか?」みたいな。その時博士がおっしゃったのは、「50年後も30年後もたぶん変わらないんじゃないの。基準は変わってないよ。ただ、もっと簡単になってるよ」と言ったんですね。「もっと楽にいける。建材は進化しているし、いまよりもっと軽装備でいけると思うよ」ということをおっしゃっていて、なおかつ、「50年後にまだパッシブハウスが普及していなかったら、もう世界は終わりだ」みたいなこともおっしゃっていましたね。つまり、エネルギー紛争が勃発しているだろうということで、それが非常に印象的でした。

 

《パッシブハウス・ジャパン10周年》

 私はパッシブハウス・ジャパンを9年やってきて、来年10周年なんですけれど、本当は10周年までやっている場合じゃなかったという気持ちがあります。

 この会を立ち上げたとき、理事就任をお願いした松尾和也さんに、5年後まだパッシブハウスというドイツの名前を引きずっているようじゃ、省エネ運動失敗、というふうに言ったんですね。すでにかれこれ8年目9年目。10年目には、なんとか次のステージに行かなければと思っているのですけれど、本当に時間との戦いだという感じですね。

 

《パッシブハウスオープンデー》

 いま、2020年の省エネ義務化に反対意見が出ているという、本当にガラパゴスというか、しょうもない状況です。これは私たちの健康マップですけれど、マップの縦軸が年間暖房需要ですね。この辺がパッシブハウスですね。マップの横軸が1次エネルギーですね。この辺に私たちが数年前に計算した大手ハウスメーカーのトップランナー級の家が青い点で散らばっているんですね。実は今日から3日間、パッシブハウスのオープンデーというのをやっていまして、緑色の点の物件が今年の参加物件なんですけれど、義務基準はたぶんこの辺に来るんですけれど、パッシブハウスという私たちの憧れとのはざまの中で皆さん格闘して、少しでもいいものをつくろうという運動をやっています。

 

《ドイツのパッシブハウス》

 東京のハウスメーカーの住宅展示場を、南から北に引きずり回すと、こういう弓みたいなプロットになります。沖縄は暖房はありませんが冷房エネルギーが発生するので、一次エネルギーは増えます。こんな感じ。日本列島は長いですからね。北海道はドイツ並み、もしくはそれよりも条件が悪いという状況です。

 では一方のドイツは何をやってきたかというと、たしか1977年から省エネ基準が設けられて、暖房の上限が定められた。むこうはヒートポンプは一般的じゃないので、ふつうの灯油ボイラー。だいたい需要と2次エネルギーが1対1か、1対1.1の関係で換算されています。現在のドイツではもうじきパッシブハウス義務化なのか、それともちょっと手前なのかというところで議論されているという状態ですね。

 

《日本の義務基準》

 これから日本が義務化しようとしている基準というのは、私たちの試算だと、暖房需要に換算すると120くらいいくんですね。㎡あたり。するとこの辺ですよね。ドイツが1995年くらいに義務化した基準を、私たちは適用しようとしている。まあ20年以上遅れている。

 なおかつ、私たちは全然条件がいいわけで。これをさっきのところに当ててみると、ドイツが年間暖房需要30Kwh/㎡くらいを義務化してくるということはどういうことを意味してくるかというと、北海道並みに寒いドイツ全土で、宮崎県に建っているハウスメーカーの住宅展示場の家と同じ暖房エネルギーを消費する家が建つという、訳のわからない状況になるんですね。で、日本は義務化をこの辺にしてくると思います。トップランナーよりさらに下のところですね。

 先日、国交省、環境省、経産省に呼び出されました。私が講演会で、日本はドイツより30年遅れていると言ったのがすごく頭にきたようで、後日呼び出されたんですが、経産省に呼ばれたと思って行ったら、そこに環境省と国交省もいたんですね。なんだ、連携できるじゃないのあなたたち。縦割りじゃないのね、こういうときは(笑)という中でこの資料を使って説明したら、ふんふんと聞いてましたけれど、どうなんでしょうね。わかっていただけたのか…。

 

《ペイバックタイム》

 周回遅れの義務基準がここにくると、安藤忠雄の無断熱コンクリートとか、吉田兼好の家とかは全部アウトになるということです。下の方でバサっと切れるということは、非常によろしいことかなと思いますが。それでもやっぱり寒いですね。

 で、それをパッシブハウスでもやるのかやらないのかという話を、私と松尾さんでずっと議論してきたんですが。松尾和也さんはパッシブハウス・ジャパンの理事なんですけれど、これまでどちらかというと、アンチ・パッシブハウスだったんですね。そこまでやる理由がわからん、という感じだったんですが、最近になって少し考え方が変わってきまして、いろんな断熱性能をやった時の、彼なりのコストアップの試算がありました。

 もしエネルギー単価が変わらなかったとして、パッシブハウス少し手前の、暖房需要20、オレンジ色のこのラインなんですけれど、これのペイバックタイムが41年なんですね。41年たたないと元が取れないということになるらしいんですね。

 しかし、国が出している情報からすると、エネルギー単価は3%上昇していくということが読み取れたそうです。ここから逆算して3%という数字を出したらしいんですけれど、そうなってきた場合は全く状況が変わりまして、27年で暖房負荷20キロのペイバックができるということなので、パッシブハウスもありうるんじゃないかと。

 松尾さんが今年この資料を作った理由は、彼自身が手がける3件のパッシブハウスが来年竣工するわけですよ。そうすると、なんとかその意義を説明しないといけないですから。そんなことで一生懸命計算してくれました。

 松尾さんはいつも、私が設計する家はサラリーマンには手が届かないと言っていますが、私の考え方は、これからもサラリーマンが新築戸建てを建てる時代が続きますか? ということです。人口減少、空き家問題も大きくなる中で、選ばれしものだけが新築戸建てを建てればいいのではないでしょうか。猫も杓子も新築戸建てではないということを、はっきり言って私は考えています。

 

《都市の建物密度》

 埼玉県の川口で2階建て住宅を設計したんですけれど、竣工してから、カメラマンと一緒に写真を撮ろうと向かいのマンションに上がったところ、思わず絶句してしまいました。なんでこんなところに木造2階建て住宅を建ててるんだろう。なんでこんなところで防火の基準と闘ってるんだろうと思いました。この都市の密度は、もう木造2階建てを建てられるような密度ではないと思うんですが、どんどん建て替えられ続けていく。さらには相続で分割されて、どんどん小さな家になっていく。この問題はとにかく考えていかなければならないと思います。

 前先生が去年のエコハウス大賞で、だだっ広いところに建つ一軒家のエコハウスなんて簡単だけど、こういう狭小住宅でどういう解が示せるかが問われていると言っていました。そもそも防火基準が絡む住宅は全部の2割しかないと言われていて、そのほとんどが東京とか都市部だと思うんですが、隣の家との離隔距離2mという住宅でエコハウスのプロトタイプをつくるというのは、はっきり言って本末転倒のような気がしています。

 この家も、防火サッシのおかげでなかなか断熱性能が上がらないなど、いろいろありました。それでも低層住宅にこだわってやっていくと、都市がどんどん肥大化していって、緑地がなくなり、通勤時間が長くなるなど、いろんな問題が出てきます。

 

《富山のパッシブタウンプロジェクト》

 コンパクトな街、中低層の集合住宅のオプションを真剣に考えていかなければならない。そういったところに住むことがかっこいいよねとか、ステータスだよねと思われるような価値観を何とか促したいと思いながら、富山のYKKのパッシブタウンのプロジェクト(パッシブタウン第三期)をやっておりました。

 公団みたいな壁構造の3階建て、4階建ての、築30年くらいの建物を改修してパッシブハウスにするんですけれど、集合住宅なので当然効率はいいですよね。なのでミニマムの断熱スペックを入ればパッシブハウスになっていくわけです。

 ボリュームの大きいほうはパッシブハウスのエナフィット(EnerPHit)認定を取りまして、右側の小さいほうはアメリカのリードホームズ(Leed for Homes)という認定を日本で初めて取りました。

 断熱改修をして、既存のバルコニーを切り落として、必要なベースプレートとかアンカーを仕込んだのち、窓を取り換えて、外断熱にして、新たに鉄骨もバルコニーの下から立ち上げる。さらに熱交換換気装置を入れたりということで、既存のエネルギー消費量から76%カットという具合に様変わりしました。

 これが改修前、改修後ですね。既存の内側の25㎜EPS断熱をそのまま使って、外側にさらにロックウールとかEPSの断熱を張って、YKKの窓を木枠で1回受けてから断熱ラインにつなぐという、こういったディテールでやりました。

 ドイツの例ですが、断熱改修してバルコニーを落とすと、(写真のように)とってつけたようなバルコニーがあって、これはちょっとカッコ悪いなというふうに思っていたんですね。そこで「カッコいい取ってつけたような」バルコニーを付けたいということで、構造設計の佐藤淳さん、隈研吾さんと一緒に表参道のパイナップルケーキ専門店「サニーヒルズ」を手掛けた佐藤さんに協力してもらって、バルコニーをデザインしました。

 今回の施主からの難しい注文としては、施主がエレベーターを入れたいと。それから65㎡のファミリータイプの住戸を全部40㎡の単身用に切り替えてほしいという、壁構なのに無茶苦茶な要望が出たんです。ということもあって、急遽メゾネットタイプをつくったり、エレベーターのシャフトのための床を抜いたりということをやっています。

 築30年の家の躯体に、これだけ大きな切開手術をするって普通はあり得ないんですけれど、なぜこれが可能だったかというと、バルコニーを温熱の理由で全部落としたことで、建物の自重が軽くなったので成立したんですね。

 後日、お施主さんがコストをだいぶ落としたかったらしく、森さん、バルコニーの切断やめようと言い出したんですね。

 バルコニーを切断せず、室内に取り込んでしまっても、カッコよくできるよねと言うんですけれど、私はかたくなにそれを拒否しながら、構造設計の人に「もしかしたらバルコニーの切断なくなるかも」という話をしたんですね。「既存のバルコニーをそのまま使うことになるかも」と言ったら、構造設計者曰く「それは困るよ、全部成立しなくなるよ。切断しないとエレベーターも通らないし、メゾネットもできないよ」とのこと。「ああそういうことね」と施主も納得して、無事バルコニーの付け替えを認めてもらいました。

 施工後はUR都市機構の方がバンバン見に来ましたが、エレベーターはどうやって入れたんだろうとそこしか興味がないようで、省エネも含めそれ以外のところは全然見ていなかったですね。

 

《コミュニティキッチン》

 パッシブタウン第三期では、コミュニティセンターというか、みんなが集まるところにキッチンを作りまして、ここに大間の家でやったようなミニオフグリッドの設備を入れました。ちょっとした防災拠点みたいな場所で、そこに気軽に集まってもらって、エネルギーを身近に感じてもらう場所にしたいなと思いました。

 ここにはペレット調理器に加え、チリウムイオン蓄電池を入れました。日産リーフのリサイクルバッテリーが住宅用として出てくるので、その会社から12kWhの容量のタイプのやつを入れてもらいましたが、これは普段は商用で売電もできるし、系統につながっています。停電時は自立運転に切り替わって、出力は落ちますけれど、中の機能は使えるという半オフグリッドとなっています。

 これが去年、全世界のLeed for Homesの集合住宅プロジェクトの中で、1等賞になりました。続けて12月1日はJIAの環境建築賞の公開審査なので、皆さんよかったら聞きにいらしてください。

 

《考えるタイムスパン》

 ちょっと話が長くなりましたが、省エネ建築診断士セミナーもこれで第29回かな。今年は熊本ということでちょっと遠いんですけれど、私と松尾さんで省エネの話、快適性の話、パッシブハウスをやるやらないにかかわらず、ベーシックな話を2日間でレクチャーしておりまして、これまでに3000人以上の方が受講してくださっています。PHPPも進化して、来年の3月にはバージョン9.6が日本語で出せるかなと思います。どんどん夏の計算ロジックが強化されたり、いろんなことが起きています。

 100年後ということですが、ヨーロッパは少なくとも50年後は見据えてこれまで政策を打ち出してきましたので、50年というのはヨーロッパ人が普通に考えてきたタイムスパンですね。まずは私たちもそれをきちんとやっていきたいですし、100年後は何の懸念もない社会になっていることを目指して、50年後までには何とか手を打ちたいなと思ってます。

 今日はこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。